もしも、あなたが NTT(日本電信電話)の社長ならば【RTOCS®】
「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。
本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。
今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。
最初にご紹介するケースは、NTT(日本電信電話)です。
あなたがNTT(日本電信電話)の社長ならば不振が続く国内事業に対してどのような抜本策を打ち立てるか?
【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がNTT(日本電信電話) CEOだったら~
1985年のNTT民営化とともにスタートした通信自由化から30年が経過、その間NTTを取り巻く市場環境、競争環境は大きく変化した。通信サービスが固定通信から移動体通信へシフトする一方で、「NTT法」によりユニバーサルサービス提供を義務付けられている東・西地域会社は有用性の低下した固定通信網を維持するために非効率経営を余儀なくされている。また、「電気通信事業法」により支配的事業者とされている東・西地域会社とドコモは特定の通信事業者に対し排他的なサービス提供を行うことが禁じられており、他社よりも競争力の高い一元的なサービスの提供が出来なかった。そのような状況の中、通信業界は放送業界との融合やインターネットの普及により異業種を交えたプラットフォーム競争へと突入、NTTは新たな顧客価値を創造し、グループの成長戦略を構築していくことが課題となっている。
◆固定から携帯へシフト。固定通信網の独占性が失われたNTT
#ナンセンスな分割再編
1985年の電気通信市場の自由化を受け、NTTはかつての公社から民営化、更に1999年には持株会社へ移行、東・西地域会社および長距離・国際会社に分割再編されました。
[図−1/日米欧主要キャリアの事業形態]をご覧ください。
欧州主要キャリアが一体的な事業形態であるのに対し、NTTの事業形態は、米国のAT&Tに非常に近いことがわかります。これはAT&Tの分割民営化方式にならいNTTの分割再編が進められたためです。しかし、もともと一つの通信ネットワークを距離や地域で分けるという発想が疑問でしたし、また、インターネット時代では「距離」という概念自体がナンセンスであるため、当時、このNTTの分割再編に私は大反対でした。
NTTがこのような分割再編の歩みを進めるなかで、国内の通信サービスは携帯電話の登場により固定通信から移動通信へ急速にシフトしました。
[図−2/国内通信サービス契約数の推移]これはNTTの持っていた「固定通信網」の独占性が実質的に失われたということを示唆しています。固定電話の契約数は97年度をピークに減少に転じ、もはや増加に転じることは期待できません。
#有用性の低下した「固定通信網」の更新・維持・管理コストが足枷に
携帯電話の普及により「固定通信網」がその有用性を失い契約減少が続く状況において、NTTは設備の更新・維持・管理に巨額な費用を投じ続けなければなりません。図−3には国内通信大手の設備投資費・減価償却費、ROA[i]を示していますが、巨大な「固定通信網」を抱えるNTTは毎年2兆円規模の設備投資費を必要とし、ほぼ同額の減価償却費が利益を圧迫、結果的にROAは3%前後と競合二社に比べ低迷しています。更には「NTT法[ii]」によりユニバーサルサービスを義務付けられているNTT東・西はこの非効率な固定回線網の縮小・撤退を機動的に行えないため、非効率経営を余儀なくされているのです。
[i] ROA:Return On Assetの略で、和訳は総資産利益率。企業に投下された総資産(総資本)が利益獲得のためにどれほど効率的に利用されているか=事業の効率性・収益性を表す。
[ii] NTT法:正式名称は「日本電信電話株式会社等に関する法律」。
[図−4/国内通信大手の事業別売上構成]を見ると、NTTは「固定通信(地域・長距離・国際)」が45%で「移動通信」の39%より大きい。対して、KDDIやソフトバンクの後発参入組は固定通信の比率が低く、成長性・収益性の高い移動通信が主力事業です。即ち、成長が見込めず維持・管理コストだけがかさむ固定通信事業を持つNTTよりも、“収益性の高い移動体事業”を“稼げる場所だけ”で機動的に展開できるNCC[ⅲ](=New Common Carrier)のほうが有利だと言えるのです。
[ⅲ] NCC:1985年の通信自由化によって参入した「第一種電気通信事業者」の総称で、新興電信電話会社を略して「新電電」とも呼ばれる。
◆競争環境の変化とARPUの低下
#伸び悩む売上・営業利益、背景にARPU(一契約当たり月間平均収入)の減少
固定通信が停滞するなか、1991年8月にスタートした移動体通信事業のNTTドコモが90年代のNTTの成長を牽引してきました。しかし2000年代以降の成長は横ばいで、2014年度のグループ連結売上高は約11兆円といったところです(図−5)。
事業別の営業利益では、稼ぎ頭である携帯事業が直近で大きく減益、比較的高い利益率をキープしていますがここ数年悪化傾向です。長距離、SI、地域事業はいずれも5%程度にとどまります(図−6)。これら売上及び利益の伸び悩みの背景には、主要サービスにおける一契約あたりの月間平均収入=ARPU(Average Revenue Per User)の減少があります。固定電話、携帯電話、ブロードバンド(FTTH[ⅳ])すべてで減少傾向にあり、特に携帯電話においては7000円弱から4000円強まで下がっています(図−7)。
[ⅳ] FTTH:Fiber To The Homeの略で、光ファイバーによる家庭向けのデータ通信サービス。
#ARPU低下はサービス間競争や事業者間競争の激化が背景
国内の通信インフラ市場そのものは、どう推移しているのでしょうか。
固定電話の契約数全体は1997年度をピークに徐々に減少し続け、更にNTTは他社にシェアを奪われています(図−8)。
携帯電話市場については、市場全体が成長しているためドコモの契約数も伸び続けています(図−9)。ただし、事業者別シェア(図−10)をみると、かつて6割を占めていたドコモはシェアを失い続け2014年度末には44%まで落ちています。
また、固定ブロードバンド回線についてもトップシェアをNTTが守り続けていますが、すでに市場自体の成長が鈍化しつつあります(図−11)。
◆NTT売上低迷の要因とは
#長期停滞・低効率経営を強いられ、「NTT法」が足かせに
NTTの現状と、国内の通信インフラ市場を踏まえたうえで、改めてなぜNTTが売上低迷するに至ったかを整理してみましょう(図−12)。固定電話に関しては、先述したように独占のメリットが薄れ、逆に設備の更新・維持・管理コストというデメリットが大きく、契約数やARPUの減少も響いています。携帯電話は契約数が伸びているものの、他社との競争によりシェアが低下し、ARPUも大幅に減少しています。ブロードバンド(FTTH)は契約数が鈍化しており、ARPUも減少トレンドに転じています。つまり、これらからは通信インフラ事業には大幅な市場拡大が見込めず、長期停滞・低効率経営にならざるを得ないということです。
さてここで、NTTの戦略を考える前に避けて通れない法規制の問題があります。それはNTTの戦略的自由度を著しく制限する「NTT法」と「電気通信事業法」です。
「NTT法」は旧電電公社が民営化されNTTとして発足するに当たって、その設立意図や事業目的を定めた根拠法ですが、この法律は持株会社であるNTTと東・西地域会社に対し、「業務規制」、「ユニバーサルサービス義務」、「資本規制」を定めています。「NTT法」により東・西地域会社の業務は県内における固定通信事業に限定され、ユニバーサルサービス義務により過疎地などの不採算地域でもサービス提供を義務付けられています。東・西地域会社は現在インターネットサービスを提供していますが、これも「NTT法」の改正が必要でした。
また、通信業界の基本法制である「電気通信事業法」には支配的事業者に対する禁止事項規制があり、支配的事業者とされる東・西地域会社とドコモは他の通信事業者に対し優先的または不利な取扱いをすることが禁じられています。これはNTTグループ内の企業にも適用されるため、NTTは競合と差別化を図るような一体的なサービスを提供することが禁じられているのです。
しかし、携帯電話へのシフトに伴い、固定通信網におけるNTTの独占性は実質的に消失しており、固定インフラを持たないNCCのほうがむしろ競争優位になりました。自由化と競争促進のための法規制ではありましたが、国民が利便性の高い一体的な通信サービスを享受できないという社会的損失も生んでいます。これらの諸規制により、NTTはひとつの会社として一体的な成長戦略を描いていくことができないのです。従って、NTTは何よりもまず国民(顧客)に対し明確な価値を提示し、これら時代遅れとなった諸規制の緩和・撤廃を強く要請していくことが重要です。
◆NTTの成長戦略を3つの方向性で考える
#国内、海外、コンテンツ事業はいずれも困難
NTTの成長戦略については、①国内シェアの拡大、②営業エリアの拡大(海外展開)、③事業分野の拡大と、大きく3つの方向性が考えられます(図−13)。それぞれの方向性を検証していきましょう。
・もしも、あなたが「ゼンショーホールディングスの社長」ならば【RTOCS®】
・もしも、あなたが「キリンホールディングス社長」ならば【RTOCS®】
・もしも、あなたが「日本経済新聞社社長」ならば【RTOCS®】
今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。
大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。
上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。
そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。