もしも、あなたがイオングループCEOならば【RTOCS®】
「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。
本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。
今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。
今回ご紹介するケースは、イオングループです。
あなたがイオングループCEOならばGMS(総合スーパー)事業が赤字転落のなか、今後いかにして成長戦略を描くか?
【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がイオングループのCEOだったら~
日本最大の小売業であるイオングループが発表した2015年2月期の決算によると、売上高にあたる営業収益は前年度より10.7%プラスの7兆785億円と、国内小売業で初めて7兆円を超えた。しかし、営業利益自体は17.5%マイナスの1413億円。この背景には、イオングループの基幹事業であるGMS(総合スーパー)事業の赤字転落がある。現在イオングループの売上高は87%を小売事業が占めているが、営業利益の8割以上を非小売事業が出しているという状況である。イオングループが収益性を改善していくために、グループとしての業態の見直しが課題となっている。
◆伸びる売上、落ち込む営業利益
#伸び続けるグループ売上
イオングループはM&Aを繰り返す拡大路線により、今では日本最大の小売業となっています。基幹事業はGMS事業やSM(スーパーマーケット)事業ですが、DS(ディスカウントストア)事業、中国・アセアン事業(海外GMS事業)、専門店事業、ドラッグ・ファーマシー事業、戦略的小型店事業(コンビニ)、Eコマース事業など多様な小売業態を展開、小売以外にも総合金融事業、ディベロッパー事業、サービス事業など、グループの事業は多岐にわたります。大量仕入れ・大量販売による「規模の経済」を一貫して追求してきましたが、売上高は拡大する一方、営業利益はここ数年、悪化を続けています(図−1)。
#営業利益悪化の原因は販管費率の上昇
イオングループでは原価率が毎年低減しているのですが、営業利益率は悪化の一途をたどっています。[図−2/イオンのコスト構造の変遷]をご覧ください。「規模の経済性」効果により原価率は低減していますが、一方で販売管理費比率の上昇が原価率の減少分を一貫して上回っており、結果的に営業利益率が悪化し続けています。一般的に小売業においては規模が大きくなる程、集中購買による商品仕入れコスト(原価)が低減し、更に店舗管理や販促戦略の集中化による販管費の低減効果が働き、一つの商品を販売することに対する必要なコストは低減する、いわゆる「規模の経済性」が働くと考えられています。イオンにおいては原価の点では「規模の経済性」効果が見られますが、総合小売り(GMS)という業態、更には業態の多様化を進めた結果、販売管理費の点では集中化による「規模の経済性」効果が発揮されなかったということです。
#改革すべきは利益率の極端に悪い事業
主力である小売業の低収益性がイオングループにとっての大きな悩みです。事業別に売上構成比、営業利益構成比を見てみると、図−3のように、売上の87%を小売事業が占めている一方、営業利益の8割以上は非小売事業から出ています。
GMS事業など、売上が3兆円を超える事業も営業利益自体は赤字になっており、多くの利益は、総合金融事業やディベロッパー事業(SC:ショッピングセンター事業)のテナント賃料などで稼いでいるのが現状です(図−4)。売上はテナント料のみであり小さいものですが、利益率は非常に高くなります。
参考までに、ライバルであるセブン&アイ・ホールディングスでは、コンビニエンスストア事業がグループ売上の45%、営業利益の80%を稼ぎ出しています。イオングループもコンビニエンスストア事業(ミニストップ等)を展開していますが、グループの主力を支えるほどの売上も利益もありません。
小売業界における業態別の平均的な営業利益率はGMSやSMで2%前後、ドラッグストアなどは5%前後、製造小売(SPA)は10~15%前後、コンビニは15~30%です。しかし、イオングループの主力であるGMSは赤字、SM・DS事業は0.3%、その他、高利益率が狙えるはずの各業態も2%未満という状況です。イオングループの問題はまさにここにあると言えます。
◆社会構造の変化によりイオンのメイン顧客層は大幅に減少
#GMSの国内販売額は低下の一途
小売事業の低迷は、イオングループだけの問題ではありません。国内の小売販売額は、1990年代をピークにこの20年間は全体的に横ばい基調です(図−5)。内訳を見ると、コンビニエンスストア、ドラッグストアが上昇基調にあるものの、百貨店が下落、スーパーマーケットは長期にわたって大きな変化はありません(図−6)。
イオングループの基幹事業であるGMS事業だけを取りだして見れば、国内全体の販売額は明らかに落ちています(図−7)。なぜこのような状況になっているのか、別の角度から見てみましょう。
#社会構造の変化による消費スタイルの変化
[図−8/国内家族類型別世帯構成の変遷]を見てみましょう。これまで消費の中心であった「夫婦と子ども」世帯は1980年代をピークに減少を続ける一方で、晩婚化・高齢化を背景に「単身」世帯が急増しており、2000年代に逆転、今後はさらにその差が拡大していくと予測されています。
これはファミリー層、いわゆるイオングループがターゲットとしていた、安さ重視・大量消費・郊外大型店利用の顧客層の減少を意味しています。休日に夫婦と複数の子どもが自家用車に乗って連れ立って郊外のスーパーマーケットへ買い物に出かけるという消費モデルの崩壊です。最も多くなる単身世帯は、品質重視・選択消費・近接小型店利用を志向しているため、この層を取り込むための業態改革が急務となります。
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大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。
上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。
そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。