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【第1部】なぜ、ピアニストからグローバル製薬会社のプロジェクトマネージャーに転身したのか?(修了生/熊野里枝子さん)

2015年11月18日に行われた同窓会組織「豪研会」主催のイベント「グローバルリーダーシップフォーラム2015」で行われたセッションの内容をご紹介していきたいと思います。

今回ご紹介するのは、修了生である熊野里枝子さんによるセッション「グローバルで力を発揮するために磨き続けるべき能力とは?~ピアニストからグローバル製薬会社へ、異色のキャリアだからこそ見えたこと~」の内容です。

元々ピアニストをされていた熊野さん。現在は大手外資系製薬会社の研究開発部門で世界でも優秀なサイエンティスト集団で構成される新薬開発プロジェクトチームのプロジェクトマネージャーを担われているという異色のキャリアを歩まれていらっしゃいます。

エリートに囲まれながら、異色のキャリアを歩んできたからこそ見えてくるグローバルで活躍するために磨き続けるべき能力とは何なのでしょうか。熊野さんが積み上げて来られた仕事の経験、キャリアを考える上で大切にしていることやBond-BBT MBAプログラムの一連の講義を通してパワーアップされたと感じている世界観についてもお話いただいたことをお伝えします。

原点となった青年海外協力隊

日本大学芸術学部でピアノを専攻し卒業後はじめて選んだ職は、青年海外協力隊でした。コスタリカ国立交響楽団のピアニストとしての派遣ミッションは、楽団員としての演奏と、付属の音楽院で生徒にピアノを教えながら音楽院に大学としての許認可を獲得することでした。卒業生は学位を取得できるようになるため、音楽家になる道の他、教職につくことが可能になるというわけです。

結果的に2年という短い任期で何とかこのミッションを達成することができたのですが、この首都での活動は生活の不自由さなどがなかったことも要因となり、現地の人と汗まみれになって行う私が想像していた、いわゆる「協力隊の活動」とはかけはなれていたため、物足りなさを感じていました。

そこで年に2回ある約2か月ずつの長い休暇を利用して、首都から離れた田舎の村に笛をかついで教えに入るなど「協力隊らしい活動」を押し売りのような形で展開していきました。田舎の学校には誰が何の目的で発注してしまったのか、日本政府から寄付された高価なピアノが錆びついた形で倉庫に放置されていました。「錆びて使えなくなってしまったので次のピアノを送ってほしい。」とピアノはほとんど弾けないという現地の音楽の先生や役場の方々から頼まれることが何度かありました。努力なしにもらうことに慣れてしまっている現地の方々をみて、これは一番してはいけない支援活動、なんとか現地の自立を促す支援活動に切り替えることが重要と思い、各地の音楽家や支援者に声をかけ一緒にチャリティーコンサートをして本当に自分たちが必要なものを買うという活動を始めました。

この活動は自分が思い描いていた協力隊らしい活動で充実感がありました。この「活動」と首都での交響楽団の「仕事」、コスタリカでは二束のワラジをはいて没頭した二年間でした。

この2年で分かったことは、自分は演奏家やピアノを教える仕事より、イベントやコンサートをプロデュースすることが好きだということでした。各地で協力者を集めること、演奏家、ホールの提供者、チケットを買ってくれる大口スポンサー、ポスターやチケットを作ってくれる人、チケットを売り買いしてくれる人、皆で1つの目的に向かってイベントを成功させることに大きな喜びを感じました。そのまま現地で活動し続けることも考えましたが、2年の青年海外協力隊の任期が終わる節目で、ポスター、チケット作成や収支計算など自分自身で行えるようになりたい、よりスムーズなプロジェクト進行をしたいと考え、苦手だったパソコンの基礎スキルを身に着けるため帰国しました。

寝食も忘れてのめり込んだプログラミングの仕事、ヘッドハンティングから得た製薬業界との出会い

日本に帰国後、「初心者歓迎、3か月無料IT研修付」に惹かれプログラミングの会社に入りました。もちろん3か月の研修を終えたらコスタリカに帰るつもりで(笑)。ところが、寝食も忘れ今度はプログラミングに熱中してしまうことに。

そうしている中、ヘッドハンターに声をかけられて製薬会社向けのソフトウエア会社へ転職することになりました。まだ承認されていない薬を世に出すためには臨床試験のデータを集めて厚生労働省から承認を得るための長い道のりがあるのですが、当時日本ではまだ紙でデータを収集していました。それをインターネットで収集できるようにして一日も早く有効な薬を世に出すためのお手伝いができる、という説明を聞き大変意義のある仕事だと感じ即決。この小さなソフトウエア会社に入ることになりました。今思うと、帰国後まわりもみえず無我夢中でプログラミングに没頭していてふと顔をあげたこの瞬間が私と製薬業界がつながった瞬間だったようですね。

この会社の日本での規模はまだ当時大変小さく3~4人の会社でしたし、紙からインターネットへの変革には想像以上に厚い業界の壁が立ちはだかっていて困難の連続でした。今考えるとお風呂にも入らずよく会社に泊まり込みクマだらけのひどい有り様でした。

製薬業界関係者と粘り強く話をしていく中で必要なサービスであることを繰り返して訴え、なんとか日本での新サービス導入にこぎつけることができました。この達成感は今でも忘れることができないほど大きかったです。

「為せば成る」と自信を得ることができた大切なキャリアの一コマでしたが、より大切な出来事がありました。それはある1人の製薬会社のプロジェクトリーダーとの出会いでした。「一日も早く必要な薬を患者さんに届けたい」と熱い思いを全面に出してチームをリードしている姿に心を打たれ、大変尊敬し一緒に仕事をさせていただいていたわけですが、一緒に働かないかと声をかけていただいたことでその方のいる製薬会社への転職を決意しました。

後日談ですがその方はピアニストをしていた自分のキャリアを聞いて、高校、大学は出ているのか、と心配だったようです。大手の製薬会社は入社基準が厳格なところが多いようで中卒だと入社例がない、高卒の場合は工場入社しかできないような決まりもあったようです。高校さえ卒業していてくれたなら工場からでも一緒にやれると裏で強く転職をサポートしてくださっていたようでした。

このような経験を通して、私がキャリアを考える時に今も一番大切だと思っていること、それは熱い思いを持った人と人との出会いです。このことは皆さんにも共通しているのかもしれませんが、特に異色のキャリア、その業界の専門のバックグラウンドを持たない私にとっては大変重要なことだったと思います。これからも熱い気持ちを持って仕事に取り組み、アンテナ高くこのような出会いを見逃さないようにしていきたいと思っています。

さて、この出会いから製薬会社に入って現在14年が経とうとしています。最初は開発部門への新規プロセスやシステムの導入、とバックオフィス的な仕事から始まりましたが、より患者さんや医療関係者の視点に近いところの仕事、新薬開発のプロジェクトチームに入って新薬の開発をしたいと考えるようになりました。約2年おきにプロジェクトチーム内のロールをかえながらキャリアを積んできました。現在のプロジェクトマネージャー職は平均的に10~20名のサイエンティストで構成されるチームの旗振り役のようなものですが、5年目と1つのロールとしては最長になりました。仕事が広範囲でマニュアルのようなものもないため、何年経っても学ぶことが多すぎてエキサイティングな日々が続いています。現在は、循環器代謝疾患領域の開発を中心に担当しています。ここまでが私のキャリアの歴史です(熊野さんは2016年1月より新しいキャリアを歩まれています。第4部掲載予定です。)。

仕事に没頭するために必要な3つの要素

Bond-BBT MBAプログラムで学んだことのひとつである「Flow」-何かに熱中、没頭すること-は後で紹介する「幸せ」に生きるための3つのうち1つの大切な構成要素です(第3部掲載)。こうして自分自身のこれまでのキャリアを振り返ると、時間を忘れて仕事に熱中、没頭できていた時間は長く、仕事がいかに自分の幸せに結びついているか気づかされます。ここで当時私なりにまとめた「Flow」を呼び起こすための3つの確認事項をご紹介したいと思います。

1)その仕事に意義を見出しているか?(誰かのため、社会のためになっていることを見つけ出し意識する。)
2)その仕事をするにあたり自分の強みを発揮しているか?(自分の強みを意識して発揮する。)
3)その仕事はストレッチが必要か?(自分の能力よりも少し上の能力、スキルが必要な仕事を取りに行く。)

仕事に没頭できていないな、と思うときはこの3つのどこかが欠けているのではないでしょうか。欠けている部分に意識を向けることであなたの「Flow」を呼び起こすことができるかもしれません。

そして、パワーアップした世界観(Bond-BBT MBA事務局より)

会社で仕事をしているときは時間を忘れ没頭してしまうという熊野さん。その時々の出会いを大切にしながら、突き進んでこられました。

その過程でBond-BBT MBAで入学をされ、仕事に没頭してきた時間は幸せに生きるための大事な時間だったのだと気が付かれたとのこと。お話をお伺いしていると、他にもMBAプログラムの学びを通して大切な気づきがあり、自身の世界観がパワーアップしたとおっしゃられています。それはどういったことなのでしょうか?次回は、その点にフォーカスしてご紹介します。

▼続きはこちら
【第2部】軸がぶれない人になるためには?
【第3部】ポジティブ心理学から学んだ「幸福」であるということ。
【第4部】グローバルで力を発揮するために磨き上げるべき能力とは?

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