ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門成果を上げる人と上げない人の違いは何か?
MBAを受講するなら最低限知っておきたいフレームワークや考え方をドラッカーの格言を引用しながら学ぶマーケティング入門講座です。
今回はマーケティング活動を実行するにあたって成果の出し方についてコメントします。
成果を上げる人と上げない人の違いは何か?
『アクションプランは行動に移さなければならない。』(『経営者の条件』p7)
『決定は最初の段階から行動への取り組みをその中に組み込んでおかなければ成果はあがらない。』(『経営者の条件』p181)
ビジネスの世界において、アイデアは意外にあふれています。大切なことはアイデアを整理して何をするかを決定して行動することです。この点、イノベーションは「アイデアを具現化すること」と捉えると「なるほど」と感じます。アイデアが足りないのではなく、出てきたアイデアの整理、そして行動力が乏しいのです。
組織の中でアイデアを次から次へと出すタイプの人(アイデアマン)は、着想こそ頻繁に行いますが、実際に手を動かすことは苦手です。アイデアは放っておいたらイノベーションにつながると考えているアイデアマンも居るかもしれません。しかし、整理して行動しなければアイデアは着想で終わります。つまり、アイデアの着想=イノベーションではないのです。
ではアイデアを行動に移すためにはどうしたらいいでしょうか?アイデアマンの話を聞く人間(通常は上司など)は、絶えず難題を抱えている場合が多いです。そのため、既存の組織は新しいアイデアを敬遠する傾向があります。アイデアを聞く人間は機会に焦点を当て、そのアイデアが機会としてどう使えるかどうかを考えると良いでしょう。そしてアイデアマンはその現実を知っておくことが大切です。
また、アイデアを投げかけるときは、少なくともそのアイデアを具現化するためのシナリオ、つまりコスト、リスク、必要な資源、期間などを示すべきです。これによってアイデアが評価されやすくなり、アイデアを具現化するためのシナリオが見えたら具体的な手順として誰が適任か?を考えやすくなります。これはアイデア着想をイノベーションに発展させる可能性につながります。「最初の段階から行動への取り組みをその中に組み込んでおかなければ成果はあがらない」のです。
MBAでの目的がディグリーの取得であれば無視してください。しかし成果を出すためのヒントやきっかけを得るのであれば期間中にとにかく動いて小さな実験を繰り返すことは大切です。
『成果をあげるためには大きな固まりの時間が必要である。』(『経営者の条件』p50)
マーケティング活動は特効薬ではありません。体調を崩して短期的に復活するために病院で点滴を打ったとしても、その人はまた繰り返し体調を崩すでしょう。再び体調を崩さないようにするためには、そもそも何故体調を崩すのか?を考えて、食生活や不規則な生活を正して適切に運動する必要があるでしょう。
しかし、これを行ったからと言って点滴のようにその日にすぐに復活するわけではありません。時間をかけてじっくりと変化していきます。しかし、時間が経過して徐々に生活にリズムが出てくるとその人はそうそう体調を崩すことが無くなるでしょう。むしろ人が変わったかのように健康的な人になるのです。
マーケティングもこれに似ています。世の中短期的な販売促進活動や安易な値下げによって、一時的にその場をしのぐことがマーケティングではありません。地道な環境分析を繰り返し実施し、顧客の情報を集め、絶え間ない努力を繰り返します。しかし一度、マーケティング活動が機能し始めると、どんどん効率的に仕事が進むようになるでしょう。何故成功したのか?何故失敗したのか?自分たちが行っている行動が検証され、プラスに働いてもマイナスでも、その結果を分析して将来につなげることが可能になります。
経営者や他の組織はこのことを理解する必要があります。小手先のマーケティングを行って、変化が無いからと言って、基の方法にもどしたのでは、永久に成長はないでしょう。これまで行ってきた行動が現在の結果を作っているのです。もとの行動にもどったとして、成長があるだろうか?考えると明白です。従って、マーケティング活動を行うためには、このことを良く理解する必要があります。
既に経営畑で仕事をしている人を除いて、網羅的なMBAの学習を苦痛に感じることがあるかもしれません。しかし、はじめは断片的に捉えていた事象が徐々につながり、最後の頃、或は卒業して実際にビジネスを行っている過程ではすべての学びが一つの線のようにつながる感覚を身に付けるはずです。時間をかけて学ぶ時期も非常に重要なのです。時間がかかるけれど後半に気が付いたら必ず成果に結びつく体験を積むと思います。是非、時間をかけて学び続けてください。
『マーケティングとは全員の仕事である。顧客と関わりをもつ者全員の仕事である』(『非営利組織の条件』p94)
「真のマーケティングは顧客からスタートする。(マネジメント エッセンシャル版)p17」にあるように顧客第一、顧客志向、ということで多くの企業がカスタマー・フォーカスに力を入れています。しかし表面的にCRMシステムの導入を行い、企業として顧客満足を連呼するだけで、実際は組織間のコミュニケーションが図られず、顧客情報の共有も進みません。これでは顧客との距離を縮めることは難しいでしょう。
表面上は顧客志向ですが、実際はプロダクトオリエントの発想で動いています。ツールの導入や技術の応用は重要です。しかし、真に顧客からスタートするのであれば、それはマーケティング部門やIT部門の連携の問題ではなく、全社一環となって取り組むことです。
企業が顧客との距離を縮めても、顧客自体が世の中の変化に対応して変化し多様化していきます。どんなに素晴らしい企業でも、この点においては地道な努力をするしかなく、特効薬的な対策はありません。しかし、徹底的に顧客からスタートする企業は3つの共通点があります。
まず、顧客情報を把握しています。企業が知るべき顧客情報を把握しはじめて、顧客満足を得る準備ができるのです。顧客情報をもとに顧客の過去、現在、将来のニーズについて予測が立つからです。
次に、顧客情報を共有しています。企業が縦割りの組織では、自部門の利益にならないという理由で情報共有がされない場合があります。せっかく顧客情報を得る事ができても組織間で情報共有が出来ていなければ、企業全体で活用することはできません。
従って、顧客からスタートする企業はカスタマー・フォーカスを企業の基本戦略に位置付けています。製品やサービスレベルでカスタマー・フォーカスに取り組むのではなく、企業の基本戦略や組織体制全てにおいて、顧客をベースに決定しています。
上記3つはコンセプトとしては目新しくはありませんが、実際に実行すると多くの困難を伴います。しかし、一歩前進するたびに企業に多くの利益をもたらしてくれる重要なコンセプトです。
成果を出すためには、行動する。継続的にインプットする。そして組織活動であることを理解する。ということで1年間の連載を締めくくります。マーケティングは仕組み作りそのものですので、小手先のテクニックではなく、企業や事業環境をじっくり把握した上で独自の視点を見出して成果を出してください。その際に、過去の考え方やフレームワークをヒントにして、それをたたき台として常に進化させてください。マーケティングを理解するためには、組織や財務会計、戦略やマネジメントなど、MBAで学ぶ基本的な概念があるとより理解が促進します。是非、楽しいMBAライフを迎えてください。
講師プロフィール
早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事
国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。
第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
第3回:企業の成長も衰退も定義次第。
第4回:顧客は製品・サービスを買っているのか?
第5回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(前編)「マクロ分析とミクロ分析」
第6回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(後編)「クロスSWOT分析」
第7回:「何でもやりたい」は「何もできない」ということ。
第8回:いかに「ファクト」を意思決定に活かすか? ~情報はあるだけでは意味がない~
第9回:“いい人”は“どうでもいい人” ~「みんなに好かれたい」では「誰にも好かれない」~
第10回:“4つの要素の合わせ技でいざ勝負!~マーケティング・ミックスという考え方~
第11回:““近江商人から学ぶ「三方善し」” ~すべては信頼のもと成り立つ~