ちょっとしたコンプライアンス違反も見逃すな!
今回は、「コンプライアンス」というテーマでお送りします。
株式上場審査をする上で、コンプライアンスは、予実管理、タイムリーディスクロージャ等と並んで大変重要な項目となっています。特に、法令順守ができる組織体制になっているか、つまり組織ぐるみで悪いことをしないか、というポイントが重要です。コンプライアンスはかなり広範な範囲にわたって審査されます。例えば、個人情報流出が、システムの問題で起こったのではなく、社員の悪意によって起こされた場合、社内ルールを遵守していなかったのではないか、とか社内ルールに不備があのではないか、ということが問われます。最近では、最も重点的に審査される事項の一つは、サービス残業です。「時間外労働の管理方法および時間外手当の未払いの有無について教えてください。」と、審査で、必ず聞かれる事項です。この問いは、いまだに多くの会社がビクっとするのではないでしょうか。取引所審査までには、十分に回答できるようになっておいていただきたいものです。多くのケースでは、サービス残業に関しては、全従業員から念書を取ることになります。サービス残業ができなくなり売上高が落ち、上場ができなくなったというケースもあると聞きます。サービス残業に関しては、弁護士のオピニオンレターを取り、過去2年分のサービス残業分を社員に支払うことで解決させることが多いようです。
一般的に、コンプライアンスについてチェックしておくべきことを考えてみましょう。まず、事業内容に、公序良俗・法律に反するものがないか、反社会的勢力とみなされるものが、営業取引、出資、人事などを通して申請会社(上場準備企業)の経営に影響を与えることがないか、等に関してチェックを受けることになります。たとえば、営業取引に関しては、上場審査で、かならず全取引先が反社会的勢力でない「確認書」を出せ、ということを言われます。全部の取引先ですから、結構手間がかかります。反社チェックに関しては、今ではどの会社でも行いますので、IPO後も、新しい取引先に関しては、日経テレコムの新聞記事検索や審査機関を通して常時チェックしていきます。出資に関してですが、誰が株主となるかは重要です。特に個人株主は重点的にチェックされます。最新の取引所の審査では、会社に関係ない方が個人で大株主になっていると、問題視されることが多いようです。つまりその会社と取引関係もなく、事業に関与していない人が株主になると、上場後すぐにその株式を売却するだろう、その結果、株価が暴落するかもしれない、というふうに証券取引所は考えるからです。また、「個人株主」は、その方をフォローしておかないと知らない間に犯罪者になっているかもしれないと考えるからです。例えば、銀行の頭取経験者のような著名な方が場合によっては株主に入ることもあるかもしれませんが、でもその方は、脱税してしまうようなことがあるかもしれません。できるだけ、個人株主には会社の事業に関連している方で、氏素性がはっきりして、よく接触する方にしてください。また、人事に関しても重要な審査項目です。私の経験では、株主ではないですが、このようなことがありました。証券取引所の上場審査の最終局面で、ある上場準備企業の取締役が過去に銃刀法違反で逮捕されたことが発覚しました。過去の逮捕歴を人は語りません。したがって、上場審査の最後の最後まで誰も気が付かなかったのです。取引所は、調べようと思えば、個人の過去の犯罪歴を調べることは簡単です。例えば、中学生のころ自転車泥棒をしたことでさえ、記録に残っていて指摘される可能性まであります。皆さん、大丈夫ですか?また、こういうこともありました。会社の社長の略歴詐欺で、上場日の前日に上場が取り消されたことがありました。また、取締役は、親族に反社会的勢力がいないかについて書類を提出しなければなりません。その他に、皆さんの会社が許認可業者であれば、許認可証のコピーの提示が求められます。以前、宅建業者で、宅建業の免許が切れているのに上場したケースがあったからです。また、会社内はきちんと消防法に則ってパーティションが設置されていますか。意外に、社内でパーティションを動かして消防法違反の状態になっていることもあるようです。ところで、今のところ、企業のガバナンス体制に関しては、社外取締役を2名以上の設置等、上場準備企業に多くは求めていません。但し、上場の際には、必ず監査役は3名以上で、過半数は社外の方でないといけません。また、こういう建研がありました。以前、私が社外役員をさせていただいていた会社で、社員が営業先でもらった景品を自宅に持って帰ったことが、上場審査上問題になったことがありました。きちんと会社に申告する体制になっていなかったからですね。また、定款の変更も上場準備できていますか?株主名簿管理人が記載されていますか、決算情報が公開できる体制になっていますか、株式の譲渡制限を外していますか。
こんなことまで、と思われた方もいらっしゃる方と思いますが、上場するからには、コンプライアンスが徹底していていないといけないことがご理解いただけたかと思います。
講師プロフィール
福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。
主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「上場企業、上場準備企業のIR担当者向けテキスト」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。