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急成長ステージ成長のために資本政策を考える

Bond-BBT MBAプログラム22期生の福田徹さんによる、「創業前~IPO後に大切にしておきたいこと」の連載 8回目。
今回は、急成長ステージでの「資本政策」にフォーカスします。

企業が急成長をしていくと、投資、人員採用、マーケティング等の資金が必要となり、そのための資金調達を考える必要が出てきます。調達せず、資金不足のままでは、急成長もままならず、現状に満足してしまい、その後の成長チャンスを摘んでしまうことにもなりかねません。資金調達には、融資、債券、株式などありますが、ここでは、株式による出資を中心に考えます。というのは、融資は、基本的には、担保中心に融資可能かどうかが査定され、銀行はなかなか企業の事業性評価ができない以上、希望する金額を調達するのが難しいのが現状だからです。債券の場合も無担保で届出等の手続きを省略して発行できる少人数私募債は、募集金額は1億円までです。返す必要もあり、金額が限られます。出資をしていただけるのは、将来の成長にかける投資家、事業提携したい企業、将来のIPOに向けて投資をしてくるベンチャーキャピタルであり、金額も通常の融資や債券発行に比べて多額の資金調達ができます。また、株式での出資は、調達した側が返済する必要がないことも魅力の一つです。

株式での資金調達は、その資金使途が借入金の返済や、当面の運転資金のためということでは、調達できません。資金の出し手は、融資と違って、元本と利息が戻ってくるから、ということでお金を出すのではありません。戻ってこないかもわからないというリスクをかけで、出資先が急成長してキャピタルゲインを得る、協業がうまくいき業績がお互い向上する等の理由で出資をします。従って、自社が株式での資金調達で急成長が続くことを目的としなければなりません。

株式での資金調達では、気を付けなければならないことがあります。例えば、間違った資本政策で会社が奪われたケースは枚挙にいとまがありません。資金調達の際には、IPOを目指す場合は、IPOするときのことを見据えて、さかのぼって資本政策を考えます。IPO時の利益、PER、時価総額を考え、それまでにどれくらいの支配権を確保しておくかが非常に重要です。どの企業も上場時にはほぼ間違いなく3分の2は確保しています。3分の2を確保していてもIPOはできます。株式総数で、マザーズで25%以上、本則(東証1部、2部)で、30%以上市場で流通させればいいのです。株式上場基準を前提に考えていくことになります。資本政策を考える際には、現在の自社株の株価を算定する必要があります。上場していないわけですからマーケットが株価を決めるわけではありません。いろいろな算定基準がありますが、必ず株価算定をしてその結果を参考に株価を決めて資金調達します。あるVCは出資する際は、実際の算定した価格よりかなり高い価格で出資して、他のVCが入れなくしているケースもあります。いくらの株価にするのかは大変重要です。企業業績をもとに算定するのですが、同じ決算期間であれば、原則は同じ株価で資金調達します。あまりに低い株価だと、出資者が多くの支配権をとってしまいます。IPOを出口とする際は、必ずその出口がいつで、いくらの株価で、何%をオーナーや社内で確保しておくかを決めることが先決です。

また、ベンチャーキャピタルが出資する際の契約書はよく確認する必要があります。VCから社外取締役を入れるのか、取締役会を傍聴するのか、何年以内にIPOする契約内容になっているのか、IPOせずVCから株式を買い取ることになった場合のその価格についてはどのようになっているのか。また、そのVCはアーリーステージで投資するのか、レイターステージで投資するのか。IPO後はいつ株式を売却するのか、あるいは1部上場まで保有し続けるVCなのか。出資をするVCの特性を把握しておく必要があります。個人投資家の場合は、この特性把握は特に重要です。その個人が持っている限りIPOができなくなった企業も数多くあります。一般的には、企業としてよりよく見える株主構成は、オーナー経営者、役員が株主であることと、業務提携関係にある大企業が株主のケースです。例えば、グリーは上場前にKDDIが株主に入っていましたし、いまだに株主です。オプティムも上場前にNTT東日本が株主に入っており、現在も大株主です。但し、事業会社から出資を受けると、その事業会社の系列かと思われることも多いので、その点は注意する必要はあります。

ちなみに、最近の上場審査では、会社に入っていない(つまり、役員でも従業員でもない)第三者が過半数以上の大株主である場合、上場審査が厳しくなるようです。つまり、会社の内部で働いていないので、上場直後に株式を売却し、売却益を得、その後、その株式の株価が暴落することを証券取引所は恐れているからです。VCの場合は、過半数以上持つことはありません。

さて、資本政策を策定し、IPOまでいつ・いくら出資を受けるかを決めます。しかし、実際の出資を受けるまでは、通常数カ月かかります。ソフトバンクの孫さんのように、経営者と会ってすぐ出資を決めるということは、通常考えにくいことです。VCの場合は、対象企業を調べることはもちろん、対象企業の顧客を訪問したり、同業他社を比較したり、VC社内での会議を何度か行います。

資本政策は、出資を受ける際には必ず必要なものです。よく理解したうえで、出資を受ける必要があります。

講師プロフィール

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福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。

主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「上場企業、上場準備企業のIR担当者向けテキスト」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。

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