安住するな!スタッフも変化し続けることを躊躇してはいけない
4月から「創業前~IPO後に大切にしておきたいこと」にフォーカスして連載開始した、Bond-BBT MBAプログラム22期生の福田徹さんによる連載第6回。今回は、「スタッフとして変化し続けることの大切さ」というテーマでお届けします。
起業をして売上げが安定的に上がってくると、経営者に限らず、安泰だと安心されるスタッフの方々も多いようです。苦労を乗り越えて経営者とともにようやく手にした売上げ。そのお気持ちもよくわかります。しかし、その安泰はいつまでも続くものなのでしょうか?
変わり続ける環境の中では当然、変化に適応し続けていかなくてはなりません。その中で、会社を成長させるために自分にどのような付加価値を身に付けさせるかといった視点も不可欠でしょう。今回はそのようなことを考えさせられる内容になっています。ぜひご覧ください。
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第1回:業界の“常識”に縛られるな!創業の肝は“自由な発想”にあり。
第2回:事業計画を作成する際、最低限知っておきたいこと。
第3回:創業融資をご存じですか?
第4回:形から入るべからず!創業直後のマーケティングの勘所とは?
第5回:安住するな!経営者として変化し続けることの大切さ
売上が上がるようになってから、「安心」が蔓延し始めていないか。
事業計画を練り、確信をもって創業をし、売上も上がるようになってきました。いよいよ事業の継続ステージの段階に入ります。ともに苦労したスタッフにも何とか給料が無理なく支払うことができるような財政状態になってきました。
実は、この時期にこの状態が続くだろうかと先行きを思いながら身震いするのが社長だと思います。自社を永続するためにさらにビジネスモデルを強固なものにしていこうと考えるものです。社長は自社のことを俯瞰するとまだまだ安心できないことが実感するのがこの時期なのではないでしょうか。
また、スタッフもこれからも継続的に給料が出るか不安だ、あるいはもっと報酬を高めたいということで積極的に業績向上に尽力することが多いステージです。多くの場合は、次の成長期をともに担おうと積極的にビジネスモデルの構築に向かいます。自分に付加価値をつけようとして変化を遂げようと頑張ります。しかしながら、何とか会社が給料を支払えるようになってくると、スタッフも給料が出ることに安心してしまいルーティーンワークのみこなすだけになってしまうことがあります。人の心を理解するのはなかなか難しいものです。
例えば、前職より給料を少し多く出すと安住してしまい表面上のやる気だけは見せて面従腹背になってしまうことがあります。また業績が悪いのを社長だけの責任にして責任を押し付けたりします。この状態は危険です。そうなると、次の急成長ステージを見ないまま終わってしまうか、小企業のまま企業が継続だけしてしまうだけになってしまいます。創業時からビジネスモデルをともに考え、一緒に苦労してきたのに、大変残念なことですね。
変わり続けなくてはならないのは、経営者だけでなくスタッフも同様。
このステージでもスタッフは変わりつつけないといけないと感じています。まだ社長も事業に不安を抱えているはずです。スタッフの声に耳を傾けることも多いです。
高級ホテルの直前格安プランを考え付いた一休の創業者も元同僚のスタッフから「もっと外に出て営業を頑張ってきてくれ」と言われ、上を見上げながら外を歩いてみると、空室の高級ホテルがたくさんあることに気が付きました。はっと思い、初めて高級ホテルの直前の空き部屋を埋めるビジネスモデルにたどり着きました。
ある会社は、いまでこそ全世界に商品を輸出していますが、新しい進出国をめぐってスタッフ間で競っていますし、同じ国にどうやって販売したらいいか、スタッフにそれぞれ同じ国を輸出対象にする別々の事業会社の社長になってもらってお互いに競わせたりしています。実は、その考え方もスタッフからのアイデアに基づいているのです。
継続ステージになってスタッフも変化し続けたから、その後もともに成長し、企業業績も拡大していったのですね。先日もある上場企業の子会社のスタッフから突然SNSを通じて呼ばれ、新規事業を考えているので、その実現性について知りたい、という要望がありました。出かけていきお会いしましたが、20代の若いスタッフの方々で、そこまでスタッフが先を読んで変革しようとしているのかと感心しました。そういう会社は枚挙にいとまがありません。
継続ステージ、経営者とスタッフはともに苦労しつつ対話を重ね、苦労を分かち合うことが大切。
仕事柄、決算発表の時期には上場企業の社長にお会いする機会が多いですのですが、お会いするときは継続ステージにともに苦労したスタッフも同席の上でご対応いただくことが多い。スタッフと社長が本当に信頼関係をもちここまで成長したのか、ということがはたから見ている私でもよくわかります。
継続ステージのスタッフは、夢をもって転職してきた方が多いものです。大企業で社内では誰でもが知る特定のビジネスフィールドで活躍して転職した人、監査法人在職中に自分が担当している株式上場準備企業にそのまま転職した人、ベンチャーキャピタルで投資先に転職した人、社長とベクトルが合い同じ会社から転職した人。
せっかく夢をもって転職したベンチャー企業、継続ステージまでくるだけでも十分な価値がある事業です。これからがスタッフがどう変革していくかが重要です。このステージでは、スタッフが仕事に安住してしまうのは、実は経営者の責任だと思った方がいい場合も多いのではないでしょうか。スタッフとの対話を怠り、社長だけ頑張っている会社が多いですが、そうなると自社にノウハウが蓄積されず、誰がどのような知識を持ち、どのように日々仕事をしているのか社長は見えなくなります。
このような事態は、私の経験上では、人材紹介業やコンサルティング業界に多いようです。これらの事業は利益率が高く、顧客を獲得し始めますと儲かるので安住しがちです。スタッフもどうしていいかわからず、日々忙しい中で業務をこなすだけで終わってしまうことになります。どうしたらいいのでしょうか。
充実したスタッフがいるならば、社長は時にはもっと内向きになってもいいと思います。ひとりひとりのスタッフともっと会話をし、理解し、スタッフの能力をさらに伸ばす努力をすべきでしょう。そうすると社長も楽になり、社長もスタッフもともに日々事業を変革することに専念することができます。また、会社の仕組みとして日々の業務に無関係なビジネスを構築する時間を設けたり、ビジネスアイデアを出してもらうような社内コンテストをしたり、イノベーションが生み出せるような仕組みを設けることもいいのではないでしょうか。
今の自社には何が大切か?そのような視点で、自分の会社と向き合ってみる必要があるかもしれません。
講師プロフィール
福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。
主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「IPOを目指す起業家及びIR担当者のためのIR実務」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。
前回は経営者の視点で、同様の切り口について主にご紹介を致しました。今回は、企業が成長していくためにはスタッフ自身も変わり続けていく大切さについてお伝えしてきました。組織は人が集まって創り上げられるもの。それであれば、スタッフひとりひとりの力がいかに大切かは想像に難くないでしょう。変化が激しい環境の中で、それぞれがどれだけさらに成長していくことができるか。それが鍵になってきます。
そして経営者として、いかにそれができる環境を創り上げていくか。そのためにスタッフとの対話が不可欠なのは言うまでもないことでしょう。有言実行。当たり前のことを当たり前にやることほど難しいことはないのかもしれませんが、この点をどれだけ徹底することができるかが重要ですね。
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第1回:業界の“常識”に縛られるな!創業の肝は“自由な発想”にあり。
第2回:事業計画を作成する際、最低限知っておきたいこと。
第3回:創業融資をご存じですか?
第4回:形から入るべからず!創業直後のマーケティングの勘所とは?
第5回:安住するな!経営者として変化し続けることの大切さ