あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(後編)クロスSWOT分析【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第6回】
4月からスタートいたしました、Bond-BBT MBAプログラム6期生の早嶋聡史さんによるオンライン勉強会「マーケティング入門」。MBAを受講するなら最低限知っておきたいフレームワークや考え方をドラッカーの格言を引用しながら学ぶマーケティング入門講座です。前回は「リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?」というテーマでマクロ環境分析とミクロ環境分析の考え方をご紹介しました。第6回目となる今回は、それらをベースに自社の戦略を見出す考え方、クロスSWOT分析について取り上げたいと思います。
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第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
第3回:企業の成長も衰退も定義次第。
第4回:顧客は製品・サービスを買っているのか?
第5回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(前編)「マクロ分析とミクロ分析」
第6回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(後編)「クロスSWOT分析」
企業本位ではなく現在置かれている環境や今後の変化をもとに意思決定すべし。
戦略を考える際に、書籍「創造する経営者」においてドラッカーは次のように述べています。
既に起こった未来は組織の内部でなく外部にある、それは、社会、知識、文化、産業、経済構造における変化である。一つの傾向における小さな変化ではなく、変化そのものである。
戦略は企業本位で捉えるのではなく、企業が現在置かれている立場や状況、今後起こり得る環境変化をベースに何をするかを意思決定することが大切です。そのためのプロセスの中で、自社でコントロールできる要因のうち今後の経営においてプラスの要素を「強み(S:Strength)」、マイナスの要素を「弱み(W:Weekness)」として整理します。そして、ドラッカーが言う「社会、知識、文化、産業、経済構造における変化」など自社ではコントロールできない要因のうち今後の経営においてプラスの要素を「機会(O:Opportunity)、マイナスの要素を「脅威(T:Threat)」として整理していきます。
経営において完全に先を見通すことはできません。しかしドラッカーは次のように言っています。
すでに起こった未来は必ず機会をもたらす。
そこでクロスSWOT分析をベースに機会や脅威を推定して戦略策定の時に活用するのです。
クロスSWOT分析で客観的に現状を整理する。
事業機会は黙ってやってくるものではなく、自らが動き見つけ出すものです。クロスSWOT分析で自社の実力をできるかぎり正確に把握し、機会や脅威を体系的に整理することで、自社の打ち手を考察し行動により移しやすくなるのです。
外部環境を整理するときは、「その変化はブームなのか?トレンドなのか?」を意識するとよいでしょう。ブームは瞬間風速みたいなもので、一時的なインパクトにしかなり得ず、長期的に投資を必要とする戦略には向きません。仮にブームに対して機会を見出すのであれば過大投資を抑えブームが去る前に利益を確定する素早さとあざとさも必要です。
少し長い期間の大きな方向性を見出すのであれば、長期的な傾向として続くトレンドに目を向け会社の方向性を決定します。ドラッカーは様々な書籍にの中で
構造的なトレンドを利用する者は成功する。
と言っていますが、その背景もこの点にあるのです。
戦略を導き出す際に大切にしたいこと。
最後にクロスSWOT分析で導き出す戦略について、考える上でのポイントを整理します。戦略を導き出す上で大切なのは、異なる方向性を選択肢として意識的に導くことです。このことを「戦略的自由度」と言います。
例えば、自分たちの今後注力してアプローチする顧客を、これまで通りの顧客、つまり既存客にするか否かで取り得る選択肢は異なってきます。既存の顧客であればこれまでの流通チャネルは活用できますが、新規であればゼロベースでチャネルの開発が必要になります。この二つは方向性として大きく異なります。
また、今企業が提供している商品(目に見える製品、目に見えないサービス)を継続的に提供するか、或は商品戦略を見直してゼロベースで開発するかによっても方向性が異なります。これは自社が保有している技術やノウハウ、特許の範囲内で行うか、それ以外の方向で実現するかの意志決定に関わります。
古典になりますが、1965年のイゴール・アンゾフ著の「戦略経営論」は、まさに上述の市場と製品の異なる方向性に対して新規と既存の軸を掛け合わせ戦略の方向性を4つの領域で示しました。クロスSWOT分析をする際に、戦略の方向性を意識して導き出すことは非常に重要です。
大前研一氏は、複数の戦略的自由度を見出すために、「ユーザーの目的を満足させる方法をできるだけたくさん抽出し、その中から競争相手が追随できない戦略的に優位になる方策、かつ持続できる方策を講じること(0から1の発想術)」の大切さを説いています。
強みにフォーカスして戦略は立案すべし。
クロスSWOT分析において、ドラッカーは強みにフォーカスすることも強調しています。例えば、「すでに起こった変化に強みを合わせることからプラニングが生まれる(実践する経営者)。」「無能を並の水準にするには、一流を超一流にするよりも、はるかに多くのエネルギーと努力を必要とする(明日を支配するもの)。」と各書籍内でも言及しています。
そのため業界でトップでない、企業規模からしても首位になれていない企業の場合、クロスSWOT分析でまんべんなく戦略の方向性を議論するのではなく、自社の強み(S)を発揮できる事業機会(O)で何ができるか?という問いを掲げて戦略を立案することも大切だと思います。
皆様でしたら、自社、もしくはご自身について、どのようにしてクロスSWOT分析に取り組まれるでしょうか?ぜひ一度、お考えになられてみてください。
次回は、「「何でもやりたい」は「何もできない」ということ」、というテーマでターゲットを絞る大切さやそのための手法についてご紹介していきたいと思います。
講師プロフィール
早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事
国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。
現実を客観的に把握することで、ハートは熱く、頭は冷静に。(Bond-BBT MBA事務局より)今回の記事はいかがでしたでしょうか?
クロスSWOT分析もよく知られたフレームワークのひとつ。状況を客観的に整理して現状把握をする上で今でもよく使われるものです。時が流れても使い続けられる、有用で普遍性のあるものだと言えるでしょう。
自らの強みにフォーカスして、現在の環境下に合った打ち手を繰り出していくことは企業にしても個人にしても、成果を手にしていくためには必要な発想なのではないかと思われます。
心は熱く、頭は冷静に。現状を冷静に受け止めながら、着実に成長のステージを駆け上がっていきたいですね。
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第5回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(前編)「マクロ分析とミクロ分析」
第6回:あなたなら、リスク(機会と脅威)を予測しどう動くか?(後編)「クロスSWOT分析」