企業の成長も衰退も定義次第。【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第3回】
4月からスタートいたしました、Bond-BBT MBAプログラム6期生の早嶋聡史さんによるオンライン勉強会「マーケティング入門」。第3回目は「ドメイン(事業領域)」について取り上げたいと思います。どのような企業であっても、自身が顧客に価値を提供するためにドメイン(事業領域)を設定してビジネスに取り組んでいます。皆様が働かれている会社ではどのようなドメインでビジネスをされているでしょうか?
ドメインを定めるということは事業を行う上で必要不可欠なことです。ただ、ときにそれに囚われすぎてしまうと、世の中の変化に乗り遅れ、窮地に追いやられてしまうということもあります。
自身のドメインとどう向き合うか?今回はその点を考える上で参考になる内容をご紹介いたします。
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第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。
思い込みに基づいて「近視眼的」になるべからず。
企業の思い込みに基づいて事業を定義すると近視眼的な発想になりがちです。そのため事業の定義を顧客中心に捉えて、永続的に続かせることを心掛ける必要があります。
ドラッカーは「業績をもたらす領域とは、個々の事業、すなわち扱う製品やサービスであり、顧客や最終需要者を含む市場であり、流通チャネルである」と指摘しています。
業績をもたらす領域は、ドメイン(事業領域)と称され経営者の最も重要な仕事の一つがドメインの定義、あるいは再定義です。
多くの日本企業は1980年代前後に成長を遂げ、いわゆる大企業となった企業群の多くは、「本業」という言葉にこだわり過ぎました。2000年を過ぎても、市場が成熟して縮小する事業にしがみつき、既存の花形事業からのキャッシュを食いつぶす状況を続けています。これでは長期的な企業の継続は見えてきません。
ドメインを再定義することの大切さ。
ドラッカーはたびたび「ドメインを常に再定義せよ」という表現をしています。これは、彼が言う「企業の目的は顧客の創造」につながる一貫した考え方に基づきます。業界や事業や商品にライフサイクルがあるように、今稼ぎ頭のビジネスは常に安泰ではありません。この発想を前提に、マクロ環境の変化を念頭に置き、5年、10年のビジネスの変化、事業機会(顧客ニーズ)がどこにあるのかを常に問い続けることが大切です。
1960年代にハーバードビジネスレビューに投稿されたセレドア・レビットの論文に「マーケティング・マイオピア」があります。この中で使われている言葉、マイオピアは近視眼という意味です。マーケティングを考えるとき、顧客の立場になって事業の定義をすることの重要性を示した内容です。
論文の中で使われている事例にアメリカの鉄道業界の事例があります。マーケティングのテキストや関連図書に多くの引用がされている事例なのですが、当時、アメリカの鉄道会社は「鉄道」という形態に固執し、旅行者や貨物をA地点からB地点まで運ぶという「輸送機能」をもつことを忘れてしまっていました。その結果、同じ機能を満たすモータリゼーションについて楽観的かつ否定的なポジションをとったのです。
鉄道業界は、鉄道という形態を発展させることに必死になったものの、自分たちの価値を「鉄道事業」ではなく「輸送事業」として捉え直すことはできなかったのです。
現在の事例を見てみましょう。GE、フィリップス、ノキア、富士フィルム。いずれの企業も自社を再定義して飛躍を続けているエスタブリッシュ企業です。GEは家電などの不採算部門を整理・縮小して、医療診断機器や航空機エンジンに資源を集中させ、金融ビジネスにも参入しました。フィリップスは事業の選択と集中により収益構造を改革し、液晶パネルや半導体事業から撤退、医療、照明、家電の3事業にドメインを絞り込みました。ノキアは2013年にかつてトップだった携帯電話部門を売却。基地局事業とデータサイエンス部門に集中しています。富士フィルムはコア事業だった写真フィルムの大幅縮小という本業の消失の危機に直面しました。しかし子会社の富士ゼロックスが手掛ける複合機を中心とするドキュメント事業、液晶フィルムに代表される高機能材料事業、医薬品や化粧品をドメインにメディカル・ライフサイエンスなどに新たな成長の舵取りをしています。
視野を広げすぎるのにもリスクがある。要は、バランス感覚が大切。
しかし、近視眼的な視野を脱して自身の事業を再定義して拡大していくことは時として無理な多角化を招きます。鉄道産業から、やみくもに自動車産業や航空機産業に参入できるものではありません。もしそのように展開していったとしたら、破綻をきたしてしまうでしょう。これはマーケティング・マクロピアと呼ばれます。
マイオピアになりすぎず、マクロピアにもならない。このバランスが実に重要です。バランスをうまく取りながら、「業績をもたらす領域を明確にし、理解しておかなければならない」のです。
ただ、市場の変化が速い現在は、従来のように3Cを簡単に定義することが困難になってきています。だからと言って、その議論を無視することもできません。様々な企業のドメインの定義や変遷を理解し、継続的に現在進行形の企業の変化を取り入れていく。その上で、自分だったらどのようなドメインを定義して事業を推進していくのか。マーケティングを考える際の戦略的なコンセプトとして考えておくと、科目の理解がより深まることでしょう。
次回は、マーケティング活動において重要な概念の一つで、顧客価値についてドラッカーの考えを基に理解を深めていきます。
講師プロフィール
早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事
国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。
マイオピアになりすぎず、マクロピアにもならない。(Bond-BBT MBA事務局より)今回の記事はいかがでしたでしょうか?マーケティングに限った話ではないですが、事業においてもバランス感覚をもつことの大切さを改めて感じさせる記事だったのではないかと思います。
ただ、言うは易し行うは難し。試行錯誤をまさに繰り返しながら前に進んでいくしかないのが実情です。そのようなときに判断の助けになるのが、MBAプログラムで学ぶようなフレームなどの知識やスキルなのではないでしょうか。
インプットしたことは自身で使いこなせるようになってはじめて成果につながります。そのような力を鍛えていく場のひとつが、ビジネススクールです。正解がない時代、自らバランスをとりながら道を切り開いていくための力を身につけられたい方は、ぜひ本プログラムにもチャレンジください!
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第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」。
第2回:部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。