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もしも、あなたが「JTBの社長」ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、JTBです。

 

あなたがJTBの社長ならば、海外旅行を楽しむ外国人客が急増するなか日本を観光立国とするためにどのような戦略をとるか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がJTBの社長だったら~

訪日外国人客の急増、規制緩和による「民泊」の解禁など、旅行業界へ追い風が吹いている。片や、日本人による海外旅行は円安による割高感から伸び悩んでいる。海外の大手宿泊予約サイトが台頭し、パッケージ旅行の店頭販売にとって脅威となるなど、冷たい変化の波も押し寄せる。JTBは国内最大手の旅行会社として、政府の掲げる「観光立国」へのけん引役を期待されている。これまで手薄だった「海外発」の需要、すなわち外国人客のニーズをどう取り込むかが課題だ。

※本解説は2015/12/27放送のRTOCS®を基に編集・収録しています。

◆訪日外国人客が爆発的に増加、旅行業界はビジネスチャンスが急拡大

#2年間で倍増し、約2,000万人に到達

日本を訪れる外国人客(インバウンド)が急増しています。日本政府観光局の2016年1月19日の発表によると、2015年の訪日外国人客数は過去最高の1,973万7,400人となり、同年の出国邦人数1,621万2,100人を上回りました。訪日外国人客数が出国邦人数を上回るのは1970年以来、45年ぶりのこととなります。「観光立国」を目指す政府の掲げた目標「2020年に2,000万人」を前倒しでほぼ達成したことにより、政府は改めて目標を3,000万人と定めました。

インバウンドを後押しするのは円安です。安倍晋三首相が2012年末、経済改革「アベノミクス」を謳い、為替レートの変動が一気に進みました。外国人が日本への旅行を割安に感じるようになり、訪日客は2013年の1,000万人からわずか2年間で倍増しています(図1)。

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#世界の海外旅行者はほぼ12億人、アジアの人気が急上昇

世界を見ても海外旅行をする人は右肩上がりに増え、2015年は11.8億人に達しました(図2)。なかでも日本を含むアジア地域は欧米に比べ、急速にニーズが高まっています(図3)。2020年には25年前の4倍もの外国人客がアジアにやってくると予想できます。日本の旅行会社にとっては、ビジネスチャンスが急拡大しそうです。

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◆特需の恩恵を享受しきれぬJTB

#業績回復も最盛期には及ばず

インバウンド特需とでもいうべき活況ですが、国内最大手のJTBはその恩恵を享受しきれていません。JTBはグループ15社、連結対象172社を擁する旅行業界のリーディングカンパニーで、2015年3月期は連結売上高1兆3,239億円と圧倒的な規模を誇ります。グループの旅行業取扱額も1兆5,093億円と、業界2位のKNT-TCホールディングスの5,143億円を大きく引き離し、シェアは25%以上。盤石な地位を築いているように見えます。

しかし、この旅行業取扱額は1990年代をピークに減少を続けており、リーマンショックの明けた2009年度には1.1兆円まで落ち込みました。現在は回復傾向にあるものの、2014年度も1.5兆円にとどまり、最盛期には及びません。長期的には20年以上に渡り停滞しています(図4)。

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#老舗企業はインバウンド市場で弱く、国内旅行者は減少が続く

これまでの伝統的な旅行会社は、自国を出発地とした旅行で強みを発揮してきました(図5)。1912年に創立したJTBも例外ではなく、「日本発→日本着」である国内旅行や、「日本発→海外着」というアウトバウンドの海外旅行を長年手がけています。いずれも「日本人の、日本人による、日本人のための」の旅行です。

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一方、このような老舗企業は「海外発」の旅行、つまりインバウンドの取り扱いが少ないという弱点があります。国内旅行の盛んだった時期はよかったのですが、日本における国内旅行の旅行者数は2000年代に入って徐々に減少しています(図6)。訪日客にとってはうれしい円安も、海外旅行をしたい日本人にとっては割高感の原因となり、JTBが得意な「日本初→海外着」の需要も減ってしまいました。

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#インバウンド市場は「発地」の旅行代理店が強い

訪日旅行の需要が高まっている昨今、その旅行客を送り出しているのは外国人客の地元である「発地」の企業です。欧米の観光客を送り出すのは、米国American Express(以下AMEX)やイギリスのThomas Cookです。中国の中国国際旅行社や上海春秋国際旅行社は、訪日外国人の多くを占める中国人に日本へのパッケージ旅行を販売し、規模を拡大しています(図7)。

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#「海外発」の国際市場へのアプローチがカギ

これまでのデータを見て分かるように、今後、伸びてゆく市場は「海外発→日本着」のインバウンドと、「海外発→海外着」の国際旅行です。世界の国際旅行客は約12億人に膨らむのに比べ、国内旅行は約3億人とおよそ4分の1に過ぎません。JTBのさらなる成長は、これまでの国内旅行に頼ったビジネスモデルを転換し、巨大な国際市場へいかにアプローチできるかにかかっていると言えるでしょう。(図8)。

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◆世界のトップはオンライン旅行会社

#日本は世界2位を誇る旅行市場

世界に目を転じると、旅行業取扱額の大きい地域は上から順に、北米、西欧、アジア太平洋です(図9)。国別では、米国が1,853億ドル(22.2兆円)と圧倒的な規模を誇ります。日本は2位で785億ドル(9.4兆円)と、3位イギリスの491億ドル(5.9兆円)に2倍近くの差をつけ健闘しています(いずれも1ドル=120円で換算)(図10)。

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#宿泊予約サイトを運営する2社が双璧

現在、世界の旅行市場を席巻しているのは、「OTA(Online Travel Agent)」と呼ばれるオンライン旅行会社です。宿泊予約サイトを運営するExpediaとPricelineが世界における旅行業取扱額ランキングの上位2位を占めています (図11)。サイトを複数の言語で展開し、各国の国内旅行はもちろん、インバウンド、アウトバウンド、国際旅行の全ての市場にアプローチできるため、顧客を世界中に拡大しているのです。

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一方、JTBは世界7位にとどまっています。実店舗における団体旅行やパッケージ旅行の対面販売が強みですが、あくまで日本人向けの国内および海外旅行が主力で、オンライン旅行会社に比べ客層が限られます。また、最近では個人旅行の人気が高まっており、ニーズも多様化しています。パッケージ旅行よりも、個人がそれぞれの都合に合わせて旅程を調整できる宿泊予約サイトの柔軟性が支持されているのです。

旅行口コミサイトも全ての市場において集客力を高めています。米大手TripAdvisorは47ヵ国で情報提供を行うなど、幅広い国の旅行者をターゲットとしたビジネスモデルを構築しています(図12)。

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#アジアでナンバーワンのJTBを中国企業が猛追

とはいえ、JTBはアジア太平洋市場においては旅行業取扱額152億ドル(1.8兆円)と、2位に2倍以上の差をつけてナンバーワンの地位を保っています(図13)。追い上げるのは中国国際旅行社と上海春秋国際旅行社です。インバウンドの波に乗って中国人観光客を日本に送り出し、規模を拡大しています。日本の日本旅行とエイチ・アイ・エスはそれぞれ4位と6位に甘んじています。

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◆顧客対象を日本から世界へ

#外国人客の取り込みが最優先の課題

世界的に旅行市場の規模が拡大する今、最優先の課題は外国人客の取り込みです。JTBは日本人の旅行者に依存した旧来のビジネスモデルを発展させ、顧客対象を世界に拡大する必要があります。

戦略は3つ考えられます。第1に、グローバルプラットフォームの構築です。世界中の旅行者にアプローチする拠点をウェブ上で確保します。第2に、インバウンド市場の取り込みのために、民泊関連のサービスを充実させます。第3に、国際旅行市場の取り込みに向け、海外の大手旅行代理店と業務やサービスの連携を進めます(図14)。それぞれについて、具体的な方策を見ていきましょう。

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◆海外大手のネットワークを最大限に活用

#リアル店舗よりネット上の戦略を重視

世界の旅行者にアプローチするためにはウェブ戦略が欠かせません。旅行口コミサイトとしてすでに世界的なプラットフォームを構築しているTripAdvisorとの提携を考えます。もしくは、AMEXやCarlson Wagonlit(以下CWT)、ドイツのTUIといったJTBと同じ課題を持つ伝統的な大手旅行会社と連携して、新たな旅行口コミサイトを立ち上げるのもよいでしょう(図15)。

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サイトでは、店頭での対面販売で培ってきた知識や経験を生かし旅行アドバイスの専門家という強みをアピールします。これまでの旅行口コミサイトにはない、質の高い情報を提供するのです。

JTBは2016年1月、訪日外国人を対象とした店舗をJR有楽町駅の近くにオープンしました。外国語を話せる社員を配置し、宿泊やオプショナルツアーなどを販売するとのことです。しかし、こうした実店舗では「来日した外国人」にしかアプローチできません。あくまでもウェブ上で、世界中の旅行者に対して広くアピールできる体制を作り、客層を広げることが重要です。

◆民泊のクオリティを維持する旗手になる

#民泊市場に品質評価・保証制度を導入

外国人客の取り込みで、外せないのが民泊です。一般住宅に有料で旅行客などを泊める仕組みで、政府は営業場所など制約の多い旅館業法を適用せず、届け出制にして緩やかな監視にとどめるなど内容を検討しています。訪日外国人客3,000万人を目指すには宿泊施設が不足しており、その不足分を民泊で補いたいという考えです。しかし、民泊には法的な問題のほかにも安全管理責任やトラブル対応など様々な課題が懸念されています。

JTBはこの民泊市場を「自ら作り込む」という気概で挑むべきです。そこでまず、JTBが民泊物件の品質評価・保証制度を導入します。JTBが基準を設けて1泊3,000円、5,000円、8,000円程度の値ごろな価格帯の物件を審査し、水準に達していれば認定マークを与えます。国内最大手であるJTBが民泊物件を評価・保証することで、民泊市場に安全性と信用力を担保し、急拡大するインバウンド需要の取り込みを図ります。

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<続きは書籍版で>

各ケースの”今”について、どうのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(Bond-BBT MBA事務局より)今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。

 

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