【第1部】ダシの世界にイノベーションを。148年続く老舗企業の挑戦。(修了生/村松善八さん)
人を育てる大切さを説かれ、ご自身の会社の若手社員の方々も本プログラムにご派遣いただいている村松さん。Bond-BBT MBAで学ばれてどのような価値を感じられたのでしょうか?また、それを経営にどう活かされているのでしょうか?まずはその背景となる、村松さんが取り組まれるお仕事について今回はご紹介したいと思います。
Q.マルハチ村松はどのようなことをされている会社ですか?
弊社は明治初年創業、148年の歴史を持つダシの専門メーカーです。ダシって何だと思われますか?多くの方は料理の際に使うものというイメージをお持ちかもしれませんが、私どもは「他の存在を助ける黒子」だと考えています。
食べ物の味を引き出す「天然調味料」、健康をサポートするサプリメント用の「機能性素材」、動物細胞の増殖を助ける「バイオ医薬素材」の3分野が弊社の取り組んでいる事業の柱です。意外かもしれませんが、いずれも実はダシが関わっています。私どもは強みとするこのような領域を活かし、各業界に対してダシの活用を提案してきております。
「ダシのことは何でもわかる」、そのように言われる存在になりたいですね。
Q.148年の歴史をもつマルハチ村松。五代目を襲名され、歴史ある会社の舵取りをされていらっしゃいますが、経営者としてどのようなことを心掛けていらっしゃいますか?
2つあります。
まず、イノベーションを絶えず起こし続けることです。老舗企業というと旧態依然とした取り組みをしているようなイメージがあるかもしれませんが、マルハチ村松の歴史はイノベーションの歴史と言ってもよいと思います。これまでの経営者は、それぞれ事業を成長させるべく、様々な挑戦をしてきました。
初代は味や香りが良く仕上がりの形も美しい「焼津鰹節標準型」という製法を独自に開発し、数々の博覧会で高く評価されるなど、地元水産加工業の発展に大きく貢献しました。
2代目は、鰹節製造時に出る煮汁を精製濃縮した「鰹エキス」を開発。さらに砕いた鰹節に鰹エキスをコーティングした「鰹の素」という調味料を開発しました。それまで煮汁は捨てられていたのですが、それを活かした画期的な商品であることが評価され、当時は注目を浴びていたそうです。
3代目は、当時、太平洋戦争の末期で日本国内の鰹節製造が危機的な状況を迎えていたということがあり、フィリピンやボルネオでの鰹節生産に活路を見出すべく、チャレンジをしていました。
4代目は、敗戦後に風前の灯だった事業を、地元に支えられながら強い信念とリーダーシップで再興させ、国内はもちろん海外事業も本格化。その後、天然調味料の量産技術を確立し、様々なタイプのダシを商品化していきました。
そして、5代目である私は、代々培ってきた技術をもとに、機能性素材やバイオ医薬素材の分野に進出しました。襲名前から経営の舵取りをしていたのですが、襲名してからはその意味や重みをしっかりと受け止めながら事業に取り組んでいます。襲名するということは、ステークホルダーに自分の本気度を伝えること、そしてイノベーションの文化を引き継いでいくことの意思表示なのだと考えています。
2つ目が長期的な視点をもつことです。私は常に10~20年先を見据えて経営をするように心掛けています。バイオ医薬の事業自体は15年前からスタートしていますが、大きく花開くようになったのは最近の事です。
大学の時にプログラミングを学んでいましたので、自社ホームページの最初のバージョンを自ら制作しました。その時に、異業種、できれば製薬メーカーと一緒にビジネスをしたいという思いで、検索エンジンにひっかかりやすい単語を多用しました。それがきっかけとなり製薬メーカーから問い合わせが入り、共同研究を成功させ、現在も良きパートナーとしてお取引をさせていただいております。
これまでは、「おいしい!」とお客様におっしゃっていただくために仕事をしてきましたが、製薬という異業種でのビジネスでは、患者さんがみるみる健康を取り戻していく様子を写真等で拝見し、大きなやりがいにつながっています。
Q.会社として「クオリティー・カンパニー」を目指されているとWebサイトで拝見しましたが、そのためにどのような取り組みをされていらっしゃいますでしょうか?
まずはお客様との対話力向上です。そのためには、顧客の要望に寄り添った提案力やインターネットを活用した情報収集力などが不可欠。円滑にそれを行うために、弊社では営業のサポート部隊を充実させています。
次に、ワンストップメーカーであり続けること。「ダシのことならなんでもわかる!」という体制を名実ともに整え、向上させていくことがお客様に価値を提供していくことであると考えております。
そして、サプライチェーンの質の向上です。FSSC22000認証の取得など、安心・安全な製品・サービスを提供し続けていくために常により高いレベルを目指しています。
それらを支え、実行するのはやはり人財です。私どもとしては、より良い人財を育成していきたいと考えています。そのために、ビジネス・ブレークスルーの各プログラムにやる気のある社員を派遣して学ぶ機会を設けたりもしています。
Q.海外展開も積極的に仕掛けられていらっしゃるそうですね。商品であるダシの品質を高めることで世界に通用するダシ文化を目指されていらっしゃるとのことですが、手応えはいかがですか?
海外の日本食レストランではよく使っていただいています。魚の鮮度や特別な精製方法が他社と比べても弊社がこだわっている点なのですが、B to Bビジネスですので、営業力が肝になっています。英語が堪能な社員はまだ決して多くはないので、身振り手振りを交えながら提案をし続けてきたことが功を奏しています。
ダシは料理において、素材の良さを引き出すもの。地域や国に合ったダシの開発を現在進めていますが、和食だけでなく洋食などでも使ってもらえるようなものを生み出し、ダシ文化をもっと広めていきたいと思います。
5代目を襲名され、強い覚悟を胸に経営の舵取りをされている村松さん。お客様により良い価値を提供し続けるために、先代が積み重ねてきた財産を活かし、事業を突き進めていらっしゃいます。脈々と続くイノベーションを起こし続ける文化が、現在も企業の中に根付いているのではないでしょうか。
事業領域を広げ、海外進出も積極的に取り組まれているマルハチ村松。今後のますますのご発展をお祈りしていたいと思います。
次回は、歴史ある会社で経営をされる上で、MBAでの学びがどのように活きているのかといった点にフォーカスしてインタビューをご紹介いたします。