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もしも、あなたが「京急不動産の社長」ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、京急不動産です。

あなたが京急不動産の社長ならば、いかに京浜急行電鉄沿線の再開発をして東京~横浜間の路線価値を高めていくか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私が京急不動産の社長ならば~

京浜急行電鉄を中核とした京急グループは、京浜地区から三浦半島を地盤とし、交通、流通、不動産、レジャーサービスなどの事業を展開している。グループの中で京急不動産は、土地・住宅の分譲やニュータウン開発によって沿線地域の開発を担ってきたが、今後沿線人口の減少や高齢化が予想されるなか、いかに沿線地域の特性を活かし、時代に合った再開発戦略を打ち出すかが課題となる。

◆不動産開発の機軸となる鉄道事業を取り巻く現状

#1998年「羽田空港駅」開業以降、輸送人員は増加傾向

京急不動産を考える上で、まず京急グループの中核となる京浜急行電鉄(以下、京急電鉄)を取り巻く状況を見ていきましょう。

京急グループは、京浜地区から三浦半島に地盤を置き、京急電鉄を中核として沿線開発を行っています。メインとなるのは、泉岳寺駅から浦賀駅まで走っている京急本線であり、泉岳寺駅で都営浅草線の相互乗り入れを行っています。京急本線の金沢八景駅から新逗子駅まで逗子線が走り、京急川崎駅から川崎大師方面を大師線、堀ノ之内駅から三浦半島の三崎口駅を久里浜線が結んでいます。これらに加え、京急蒲田駅から羽田空港までをつないでいるのが空港線で、今、大きな期待が寄せられています(図1)。

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この空港線の沿革を見てみましょう。1902年に京急蒲田駅から穴守駅までを穴守線として開通したのが始まりです。1931年に羽田飛行場が開業し、京急のほか、1964年には浜松町駅から旧羽田駅(現天空橋駅)まで東京モノレールも開業しました。その後、1993年の空港延伸第一期工事により空港線羽田駅(現天空橋駅)が開業、1998年に空港延伸第二期工事が完成、羽田空港駅の開業により、空港線の現行路線が完成しました。2012年には京急蒲田駅の高架化も完成し、品川~羽田間、横浜~羽田間の直通電車を10分間隔で運行しています(図2)。

こうして羽田空港とのアクセス改善を進めてきた結果、京急電鉄の輸送人員は1998年の羽田空港駅の開業以降、増加傾向にあります。1998年度に4億人強だった輸送人員が、2014年度には約4億5,000万人まで増加しました(図3)。

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#空港線が輸送人員を牽引し、京急とモノレールが拮抗

[図4/京急電鉄の区間別輸送人員推移]をご覧ください。空港線は、羽田空港駅が開業した1998年以降、輸送人員が大きく増加しています。1998年を基点に約1.7倍超に増加しています。それに対し、京急本線は微増、久里浜線・逗子線には、減少傾向が見られます。

現在、羽田空港への鉄道アクセスは、京急とモノレールの2路線あります。アンケート調査による交通手段別シェアでは、モノレールが29%、京急が29%と拮抗しています。それに続くのが、路線バスの21%となっています。利用者からは、品川駅から羽田空港までエアポート快特を使えば十数分という利便性が、浜松町駅でモノレールに乗り換えるよりも快適で速いと高く評価されています(図5)。

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#沿線人口は2015年を境に減少の見通し

空港線の輸送人員の増加で好調に見える京急電鉄ですが、実は、今後の沿線人口減少という大きな問題を抱えています。この問題は多くの私鉄が直面する問題です。例えば、高所得者が、沿線に多く住むことで知られる関西の阪急沿線は、日本で一番高齢化が進んでいる線でもあります。高齢化は、高台の高級住宅地から駅周辺までの移動が難しくなるものですが、この傾向は京急沿線にも当てはまります。

京急の沿線人口の推移及び将来推計を見ると、沿線人口は2015年の374万人から、2040年には339万人に減少することが予想されています。2015年を境に減少に転じ、2040年までの25年で沿線人口は9.4%も減少する見通しです(図6)。

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#京急沿線自治体の将来人口推計

沿線人口の減少について、エリア別で見てみましょう。京急沿線の自治体の将来人口推計を、2015年から2040年まで5年ごとに見てみると、一番大きく減少しているのが横須賀市です。一戸建てを求めて横須賀市に家を買い、都心に通勤する人は明らかに減少しており、私が立ち上げた一新塾[i]出身の横須賀市の吉田雄人市長からは、こうした人口減少の悩みとリアルな問題を聞く機会が多くあります(図7)。

沿線の中では、品川・羽田エリアの港区、鶴見・川崎エリアの川崎区、幸区、横浜中心部エリアの神奈川区あたりは現状維持が期待できますが、それ以外の自治体は人口急減が避けられません。かつてサラリーマンのベッドタウンと呼ばれた地区は、著しい人口減少が予想されています。

[i] 1994年に大前研一が創設した新しい日本のネクストリーダーを育成するための養成機関。2003年、NPO法人となり運営体制が変わった。2015年8月現在、卒塾生は約4300名。現職の国会議員は7名、自治体首長は10名、地方議員は約100名、社会起業家は約200名輩出している。

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さらに、将来人口を2015年と2040年の増減率で比較して見ると、都心から離れるほど減少率が大きいのがわかります。横浜南部から三浦半島にかけて、特にその傾向が顕著です。三浦半島の三浦市は2040年には、2015年の人口の約30%が減少する見通しとなっています(図8)。

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◆ニュータウン開発など住宅関連不動産事業を行う京急不動産

#京急グループの不動産事業は6社で構成され、連結売上高の14%

ここからは京急グループの不動産事業を担う京急不動産について見ていきます。京急電鉄連結の2015年3月期の売上構成比を見ると、グループの不動産事業は親会社である京急電鉄や子会社の京急不動産を含む計6社から構成されており、連結売上高の14%を占めています(図9)。

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京急不動産はグループ内では、主に住宅関連の不動産事業を担っており、ニュータウン開発、区画整理事業、土地・建物の分譲事業、マンションの分譲事業、仲介・賃貸事業などのサービスを行っています(図10)。また、親会社である京急電鉄は主に駅及び駅周辺の商業ビル開発を行っています。

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#親会社の不動産事業が不振、売上停滞、利益も悪化

次に、京急電鉄のセグメント別業績を見てみましょう。グループ連結の不動産事業の売上高は、2015年3月期で430億円、営業利益は3億円となっています。京急不動産の単体売上高は68億円、営業利益は1.7億円です。営業利益を見ると、2011年以降、交通をはじめ、レジャー、流通といった他セグメントが上昇しているのに対し、不動産だけが下降しており、利益が悪化していることがわかります(図11)。

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グループ連結の不動産事業の不振は、親会社の京急電鉄が担っている駅及び駅周辺の商業ビル開発の不振が主因で、京急電鉄単体ベースの不動産事業の営業利益は赤字となっています。京急不動産単体の直近5年の売上は減少傾向、営業利益は赤字スレスレを推移しています(図12)。

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#ニュータウン、マンション開発を経て出てきた沿線格差

これまで京急不動産は、横浜南部から三浦半島にかけてのニュータウン開発を進めてきました。主なところとしては、横浜南部のニュータウン港南、ニュータウン金沢能見台、ニュータウン富岡、三浦半島のニューシティ湘南大津の丘、ニュータウン観音崎、ニュータウン野比海岸、ニュータウンマリンヒル横須賀野比、ニュータウン三浦海岸、ニューシティ湘南佐島なぎさの丘があります。こうしたニュータウンに住んでいるのは、都心の職場まで通勤で1時間半くらいかかってでも一戸建てに住みたいという人々でしたが、この年代も高齢化が進み、ニュータウンがシニアタウンになっているのが現状です(図13)。

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現在、都心回帰の傾向も強まっていますが、そのニーズをマンション開発で取り込もうと、川崎・港町駅前マンション「リヴァリエ」、プライム川崎矢向、プライム横浜屏風浦、ザ・タワー横須賀中央などの開発も進めました。とはいえ、やはり横浜屏風浦や横須賀中央では都心から遠すぎて、川崎くらいまでが都心回帰のニーズを満たすエリアです(図14)。

京急不動産の現状と課題を整理すると、今後、京急沿線は「北高南低」の沿線格差が進むといえます。横浜南部から三浦半島にかけての沿線南部の人口減少により、需要も減少していきます。それに対し、横浜以北から川崎・羽田・品川周辺の沿線北部は、大田区をはじめ人口減少はあるものの、羽田空港の利用客の増加や品川周辺への都心回帰によって需要も見込めます。

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<続きは書籍版で>

各ケースの”今”について、どうのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。

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