もしも、あなたが「ニトリホールディングス社長」ならば【RTOCS®】
「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。
本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。
今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。
今回ご紹介するケースは、ニトリホールディングスです。
あなたが「ニトリホールディングス社長」ならば最高益を更新し続けている今、どのように新たな一歩を踏み出すか?
【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がニトリホールディングスの社長だったら~
国内の家具専門小売業界で、売上規模と店舗網で競合に圧倒的な差をつけるニトリホールディングス。「製造物流小売モデル」による高度なマーチャンダイジングと徹底的なコスト管理で28期連続の増収増益を続けてきた。しかし、国内の新築着工件数減少に伴い、家具小売市場規模は長期的な衰退傾向にある。好調を維持するニトリが今後も成長していくためには、家具・インテリアだけにとどまらない新たな事業拡大戦略を打ち出すことが課題となっている。
◆躍進するニトリホールディングス
#圧倒的な売上高と店舗網
ニトリホールディングス(以下、ニトリ)の売上高は、2015年2月の決算時点で4,000億円を超え、増収増益を続けています。国内の家具専門小売業界においては2位以下と大きな差をつけ、業界第1位の突出した実績を築いてきました。2位は外資系で世界最大の家具小売であるイケアの日本法人が売上高772億円、3位は高級輸入家具に強みを持ち、現在、経営方針の転換を図っている大塚家具で555億円となっています。国内店舗数を見てみますと、イケアが8店舗、大塚家具が16店舗という状況に対し、ニトリは346店と、圧倒的な店舗数を展開しています。(図1)。
#製造小売モデルの2社が業界を牽引
業種を生活雑貨まで広げて見てみますと、「無印良品」ブランドを展開する良品計画が好調です。2015年2月の決算では2,600億円を超え、ニトリに次ぐ業界第2位の売上高となっています(図2)。ニトリと良品計画の2社は、自社で商品の企画から製造、販売まで行っています。このSPA[i]と呼ばれる製造小売モデルは非常に収益性が高く、国内アパレル業界ではユニクロのファーストリテイリングが代表的です。
[i] SPA:speciality store retailer of private label apparelの略。企画から製造、販売までを一貫して自社で行うこと。サプライチェーンを統合したことで、卸売業者や流通業者などへのマージンがカットできることや、商品開発に消費者動向を素早く対応させられるといったメリットがあるといわれる。
国内家具・生活雑貨小売業の営業利益率を比較すると、ニトリの営業利益率は15%を超えており、商品を仕入れて販売する通常の小売モデルに比べ極めて高い利益率となっています(図3)。例えば、都市型ホームセンターである東急ハンズは認知度が高く人気もありますが、営業利益率を見ると0.9%しか出ていません。輸入家具大手の大塚家具は、2014年12月の決算時点で赤字に転落しています。国内の家具専門小売業者は小規模なところが多かったのですが、ニトリは製造小売モデルを構築し、高い収益性を実現する会社へと成長しました。
◆製造小売モデルによるコスト管理で、長期的な増収増益を実現
#市場の縮小に反した増収増益
ニトリの業績推移を見ると、売上高が継続的に上昇していることがわかります。28期連続の増収増益で、経常利益は2014年度時点では700億円近くまでになりました(図4)。
一方で、国内の家具市場は縮小傾向が続いています。日本では婚姻件数の減少などが影響し、新築の住宅着工戸数は90年代から長期にわたり減少傾向です。それに伴い、かつて6兆円あった家具市場規模は、2014年度には3.3兆円まで落ちてしまいました。ニトリはその状況のなかで売上高を伸ばし続け、4,000億円を超える大きな存在となっています(図5)。
#徹底的なコスト管理による高い利益率
先ほども述べたように、ニトリの高い利益率を支えているのは、商品企画から製造、物流、販売を自社で行うSPAモデルです。ニトリ製品は、インドネシアやベトナムの子会社工場で製造を行っています。また、タイ、マレーシア、中国、インドなどの海外子会社が輸入代行を行い、これらは一度中国にある2か所の物流センターに集められます。そこから国内の物流センターに分散させた上で、各店舗へ配送されます。
ニトリのように、バリューチェーンの全ての段階を自社で行うことはSPAモデルのなかでも特異です。例えば、代表的なSPA企業であるファーストリテイリングは自社企画製品を直営店で販売していますが、製造と物流は外部委託です。他の多くのSPA企業でも、バリューチェーンの一部が外部委託になっていることがほとんどです。ニトリ流の「製造物流小売モデル」では自社で全てのバリューチェーンを掌握しているため、全ての段階で徹底的なコスト管理を行うことが可能となります。したがって、安価な商品を提供しながらも高い利益率を実現できるのです(図6)。
◆ニトリの強みを活かした新たな取り組み
#飽和する国内市場における成長戦略
国内家具小売市場が低迷するなか、今後もニトリが成長を続けていくための戦略軸を考えてみましょう。まず、ニトリモデルの強みである「製造物流小売モデル」を活かすことが必須です。その上で、飽和する国内市場における成長戦略として「商品単価・客単価の向上」「販売エリアの拡大」「事業分野の拡大」の三つの軸に沿って具体的に考えていきたいと思います(図7)。
一つ目の「商品単価・客単価の向上」案については、中~高価格帯家具を強化し顧客層の拡大を図ります。そして、富裕層の取り込みを図るため、インテリアのトータルコーディネートサービスの展開を強化します。
次に「販売エリアの拡大」案については、やはり海外展開が欠かせないでしょう。同じSPAモデルであるイケアが世界展開を拡大させているように、欧米先進国市場や、新興国市場に目を向けていかなければなりません。
最後に「事業分野の拡大」案については、住生活分野内で家具以外の領域にニトリモデルを横展開することです。スマートホームや水回り、内装、外装、生活家電などの分野が挙げられます。さらに領域を広げ、住生活分野外にニトリモデルを展開することも考えられます。しかし本業から大きく外れる分野に進出するにはリスクが大きく、なにより相乗効果の期待できる周辺分野から徐々に攻略することを考えると優先度は低いでしょう。
#アパレルブランドの戦略を踏襲し、高級ブランド要素の取り入れを
まず、一つ目に挙げた「中~高価格帯家具の展開」についてですが、低価格帯の商品を量産することに注力してきたニトリにとって、いかに格調の高いデザインを取り入れ、富裕層にアピールできるかが課題となります。
ここでアパレル業界に目を向けると、ファストファッションで知られるZARAを展開するINDITEXや、H&MなどのSPAブランドは、高級ブランドのデザインを模倣し、いち早く市場に投入することで、ハイセンスな顧客層の取り込みに成功しています。したがって、同様の手法をニトリも取り入れることで、中・高価格帯のデザイン家具やインテリアの強化を図り、顧客層の拡大につなげることができるでしょう(図8)。
#高級ブランド化、トータルコーディネートサービスによる付加価値
二つ目には、同じく富裕層向けのアプローチとして、コーディネートサービスの強化を考えます。「ニトリモデル+1」として、バリューチェーンをさらに川下展開し、より顧客に近い位置でサービスの強化を図ります。そのために、プロのコーディネーターを採用し、10年、15年先を考えた家具コーディネートを提案します。自社製品だけでなく、他社の製品や輸入家具も自由に組み合わせた提案を提供することで、富裕層の取り込みを図ります(図9)。
・もしも、あなたが「エスビー食品社長」ならば【RTOCS®】
・もしも、あなたが「ゼンショーホールディングスの社長」ならば【RTOCS®】
・【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第1回】
各ケースの”今”について、どのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)
今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。
大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。
上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。
そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。