close

もしも、あなたが「ホンダ エアクラフト カンパニー社長」ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、ホンダ エアクラフト カンパニーです。

あなたがホンダ エアクラフト カンパニーの社長ならば、量産化に目処を付けたビジネスジェットで競合ひしめく中、いかにシェアを取っていくか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私がホンダ エアクラフト カンパニーの社長だったら~

1986年に航空機の研究開発に着手したホンダは、2006年にホンダ エアクラフト カンパニーを設立し航空機事業へ進出、機体とエンジンの両方を手がける世界で初めてのメーカーとして、ビジネスジェット市場に本格参入する。同社の「ホンダジェット」は小型最軽量クラスで、機体の性能は同クラス内でも群を抜いている。しかし1機450万ドル、日本円にして約5億4千万円という価格は同クラス内では突出して高い。セスナやエンブラエル などの実績のある競合に対して、新規参入者としていかにポジションを確立し、顧客を取り込むかが課題となっている。

◆30年の研究を経て、ホンダ航空機事業が始動

#ホンダがビジネスジェット市場に参入

1986年に航空機の研究開発をスタートしたホンダは、2006年に航空機事業への進出を発表し、米国ノースカロライナ州にホンダ エアクラフト カンパニー(以下、ホンダエアクラフト)を設立しました。2015年時点ですでに100機以上受注しており、米連邦航空局(FAA)の最終型式証明を得て順次納入が始まる予定です。

ビジネスジェットとは、企業・団体、または個人がビジネス目的で保有・利用する航空機のことで、日本ではまだ馴染みが薄いですが、欧米ではエグゼクティブを中心に広まっています。数人から数十人乗りで、定期航空運送などの商業航空ではなくジェネラルアビエーション[i]として、主に役員や社員の輸送やプライベートジェットとして利用されています(図1)。

[i] ジェネラルアビエーション:航空機による飛行のうち、軍事目的と定期航空路線を除くあらゆる活動の総称。

スライド1

ビジネス用途に使われる航空機のエンジンタイプには、主にピストンエンジンとタービンエンジンがあります(図2)。ピストンエンジンとは、いわゆるプロペラエンジンのことで、シングルピストン(単気筒)とマルチピストン(多気筒)の2タイプがあります。ビジネスジェットに使われるタービンエンジンには、ターボプロップ(プロペラ型)とターボジェット(ファン型)の2タイプがあり、ホンダエアクラフトではターボジェットを採用しています。

スライド2

#小型最軽量クラスの需要を狙う

ターボジェット機は、最大離陸重量によって「エアライナー」「ヘビー」「ミディアム」「ライトミディアム」「ライト」「エントリー」「ベリーライト」と7クラスに分類されます(図3)。それぞれの代表機種は、最重量クラスの「エアライナー」がエアバスACJ319[ⅱ](最大156席)、「ヘビー」は世界のエグゼクティブに今一番人気の長距離飛行が可能なガルフストリーム9650[ⅲ](最大18席)、「ミディアム」はボンバルディア[ⅳ]のチャレンジャー605(9+2席)、「ライトミディアム」はセスナ[ⅴ]のサイテーション・ソヴリン(8+2席)、「ライト」はビジネスジェットの代名詞とも言えるボンバルディアのリアジェット(6+2席)、「エントリー」はセスナのサイテーションCJ2(6+2席)です。そして小型最軽40XR量クラスの「ベリーライト」に属するのが、ホンダジェットです。座席数は4席と操縦席に2人、価格は450万ドル、日本円にして約5億4000万円です。

[ⅱ] エアバス:ヨーロッパ4カ国が共同出資する航空機メーカー、エアバス社の航空機。
[ⅲ] ガルフストリーム:米国ジョージア州サバンナを拠点とする航空機メーカー、ガルフストリーム・エアロスペース社の航空機。同社のビジネスジェットは各国政府が多数所有しており、世界最高峰と言われている。
[ⅳ] ボンバルディア:カナダのモントリオールに本部を置く企業。航空機や鉄道車両、保安設備など幅広く製造しており、飛行機部門では世界第3位。
[ⅴ] セスナ: 1927年に米国カンザス州ウイチタに設立された軽飛行機・ビジネス機のメーカー。正式名称は、セスナ・エアクラフト・カンパニー。

スライド3

◆長期的な需要拡大が期待されるビジネスジェット市場

#最大市場の北米に対して日本市場は極小

日本ではまだ馴染みの薄いビジネスジェットですが、北米・南米・欧州ではすでに有効なビジネスツールとして定着しています。それを裏付けるデータが、[図4/世界地域別ビジネスジェット保有シェア]です。世界のビジネスジェット保有数は、ターボプロップが約14,000機、ターボジェットが約20,000機で、計約34,000機。地域別の保有シェアは北米が66%、欧州が11%、南米が10%、アジア・太平洋・中東が9%と、アジアのマーケットが非常に小さいことがわかります。

[図5/ビジネスジェットの国別保有状況]を見ると、米国がトップで19,229機、続いてブラジルが1,635機、カナダが1,348機、メキシコが1,268機、ベネズエラが738機と、北米、南米の国々がトップ5を占めています。それに比べて日本は62機という状況です。このように、ビジネスジェット市場の中心は米州や欧州です。

スライド4

スライド5

#リーマンショック前をピークに納入機数は4割減、金額ベースでは回復

続いて、世界の市場規模の変化を見てみましょう。ビジネスジェットの納入機数はリーマンショックの影響で2009年から急降下し、ピーク時の約1,300機から約700機まで減少しました(図6)。金額はピークの219億ドルから一旦は200億ドルを切りましたが、現在は220億ドルまで回復しています。これが何を意味するかというと、ジェット機の平均単価が上昇し、富裕層の利用者が増えているということです。

地域別に見ると、やはりリーマンショックの影響で相対的に北米、欧州が減少、新興国のシェアが伸びてきています(図7)。

スライド6

スライド7

#ビジネスジェットの需要は長期的に拡大

ビジネスジェットの運航機数は今後20年で約2倍に増加すると予測されており、長期的な需要拡大が期待できます(図8)。

[図9/ビジネスジェットのクラス別需要予測]を見ると、ホンダジェットが参入する小型最軽量クラス「ベリーライト」は3,355機の新規需要が見込まれ、保有機数は4倍以上に増えるという計算になります。ひとつ上の「エントリー」クラスと比べてもその伸び率ははるかに高く、メインのマーケットである「ヘビー」「ミディアム」クラスには及ばずとも、大きな成長が見込まれる市場です。

スライド8

スライド9

◆ホンダエアクラフトが狙うべきセグメントとは

#「ベリーライト」は「エントリー」「ライト」クラスと競合

ホンダジェットが参入する「ベリーライト」クラスは航続距離や用途的に「エントリー」や「ライト」クラスの機種と競合します(図10)。「エアライナー」「ヘビー」クラスなどの大型機は航続距離が10,000km以上と太平洋の横断が可能、「ミディアム」「ライトミディアム」クラスの中型機は航続距離が5,000〜7,000km前後なので、北米大陸全土の移動やニューヨークからロンドンまでといった大西洋の横断も可能です。「ライト」「エントリー」「ベリーライト」クラスの小型機は航続距離が2,000〜3,200km前後のため、近距離の移動向きです。

スライド10

競合するメーカーとしては米国のエクリプス・アビエーション[ⅵ]、軽飛行機の世界の代名詞とも言われるセスナ、並びにビーチクラフト[ⅶ]、そしてブラジルのエンブラエルなどとシェアを奪い合うことになります(図11)。

[ⅵ] エクリプス・アビエーション:1998年創業、軽量ジェット機のパイオニア。リーマン・ショックの影響により2008年に経営破たん、現在再建が検討されている。
[ⅶ] ビーチクラフト:セスナ、パイパー・エアクラフトと並ぶ軽飛行機の世界三大メーカーのひとつ。

スライド11

#「ベリーライト」クラスでありながら、ワンランク上のスペックを実現

ホンダジェットは、「ベリーライト」クラスのコンパクトな機体ながら、ワンランク上の「エントリー」クラス並みの性能を持っています。最大巡航速度は時速778kmと同じクラスのジェット機と比べてもトップクラス、航続距離は約2,200kmで「エントリー」クラスに迫る勢いです(図12)。

ただし[図13/主な競合機種の価格比較]を見るとわかりますが、価格が450万ドルと「ベリーライト」クラスの中では突出して高く、「エントリー」クラスのビーチクラフト・プレミアワンとほとんど変わりません。

スライド12

スライド13

・・・

<続きは書籍版で>

各ケースの”今”について、どうのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。

BOND-BBT MBA TOPへ