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もしも、あなたが「日本郵便の社長」ならば【RTOCS®】

「RTOCS®(Real Time Online Case Study)」をご存知でしょうか?「RTOCS®」とは、BOND-BBT MBAプログラムをBOND大学と共同で運営する株式会社ビジネス・ブレークスルーが独自に開発した教育メソッドです。国内外の経営者、リーダーが取り組んでいる現在進行形の課題をケースとして取り上げ、「自分がその組織のリーダーであればどのような決断を下すか」を経営者、リーダーの視点で考察し、「意思決定」に至る力を鍛錬。前例のない予測不可能な現代社会において時代の流れを読み取り、進むべき道を見極め、切り拓くことのできるビジネスリーダーの育成を目指しています。

本プログラムでは大前研一が担当する「戦略とイノベーション Part A(Strategy and Innovation Part A)」で取り組む「RTOCS®」。一部のケースが書籍化され、Amazon等で販売されています。

今回は、書籍版「RTOCS®」で取り上げられるケースの一部をご紹介していきたいと思います。1つのケースにおいても解説をすべてお見せすることができないのが残念ではありますが、「RTOCS®」の一端を垣間見ることができるのではないでしょうか。お時間があるときにぜひご覧ください。

今回ご紹介するケースは、日本郵便です。

あなたが日本郵便の社長ならば、格安スマートフォン事業への参入によってどのように郵便事業とのシナジーを図って成長戦略を描くか?

【BBT-Analyze】大前研一はこう考える~もしも私が日本郵便の社長だったら~

日本郵政グループで郵便・物流事業を担う日本郵便は、大手携帯事業者から通信回線を借り受け、自社ブランドの端末やサービスを低価格で提供する格安スマートフォン事業に参入する。インターネットの普及とともに各サービスがサイバー上のプラットフォームへと置きかわり、郵便事業収入が減少を続けているなか、スマホ端末を顧客直結のプラットフォームとして、いかに既存の郵便局と融合し新たなサービスを提供していくかが課題となっている。

◆ネットの普及で置き換えられた郵便サービス

#銀行、生命保険に対し、経常利益が少ない郵便・物流事業

日本郵政グループは、純粋持株会社の日本郵政と事業会社である日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命の4社からなり、2015年11月には日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社が上場する予定です。銀行事業を行うゆうちょ銀行、生命保険を取り扱うかんぽ生命の2社は好調な業績を出しているのに対し、利益が出ていないのが郵便・物流事業を行う日本郵便です。ゆうちょ銀行は経常収益2.1兆円に対して、経常利益が5,695億円、かんぽ生命は経常収益10.2兆円に対し、経常利益が4,931億円という状況です。一方、日本郵便は経常収益が2.8兆円あるにもかかわらず、経常利益は220億円と、グループ内で大きな収益差があります(図1)。

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政府が100%出資しているため、今後の日本の財政を考えていく上でもグループ会社を上場させ、国民に還元していくことが必要というわけです。しかしながら、現状の日本郵便の収益率の低さはグループ会社の足枷となっています。

#郵便事業収入は減少の一途

[図2郵便物引受数及び郵便事業収入]を見てみると、郵便物引受数は2001年度をピークに減少を続けています。そして、郵便事業収入は郵便物の減少がはじまる以前の1996年度をピークに減収に転じています。

1990年代には単価の高い第一種郵便(封書)から単価の安い第二種郵便(はがき)へのシフトが進み、これが減収の要因となりました(図3)。2000年代にはインターネットの普及に伴う通常郵便物の大幅減少が、減収の主因となりました。ただし、近年はネット通販需要の増加により単価の高い宅配が急増しているため、直近の事業収入は回復傾向にあります(図4)。

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#リアルプラットフォームの郵便局が、サイバープラットフォームに

手紙や書類などの通常郵便が電子メールに置き換えられたように、リアルなプラットフォームである郵便局が担っていた役割は、サイバープラットフォームであるスマホ内のアプリへと変化しています。現実として、日本郵便は郵便物の大幅な減少から減収を余儀なくされました。これは一見、デジタル化の進展が日本郵便のビジネスモデルを崩壊させているように見えます。しかし、基本サービスが急速にデジタルに置きかわるということは、逆の見方をすれば元々のサービスとデジタルの親和性が極めて高いということでもあります。日本郵便は、このデジタル化の流れを大きなビジネスチャンスと捉えるべきでしょう(図5)。

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◆既存の強みを活かした新たな取り組み

#消費者と直結したプラットフォームの役割を担うスマホ

2014年11月、日本郵便がMVNO[i]を通じて格安スマートフォン事業への参入を発表しました。これにより、リアルの窓口である全国約24,000の郵便局に対し消費者1人1人と直結するデジタルプラットフォームが確保でき、新たなサービスの拡充が可能になりました。

従来のサービスは、郵便局の窓口をプラットフォームとした郵便・銀行・保険の3サービスを提供していました。格安スマートフォン事業への参入は、この基本3サービスに加え新たなサービスの提供も可能にします。プラットフォームが郵便局の窓口からスマホ端末に変化し、消費者1人1人と直結するプラットフォームができることで、無限のサービス拡張性が期待できるでしょう(図6)。

[i] MVNO :Mobile Virtual Network Operatorの略。携帯電話やPHSなどの無線通信インフラを他社から借り受け、自社ブランドの通信サービスを提供する事業者。自社インフラをMVNO事業者に提供する側は、MNO(移動体通信事業者)と呼ばれる。

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#地域に1つから一家に1台となり、地方の高齢者層もフォロー

これまでは地域に1つ郵便局があり、郵便・物流事業、銀行業、保険事業の基本3サービスを展開していましたが、日本郵便の格安スマホ参入により、一家に1台、各個人がスマホの中に郵便局を持てるようになります。同時に基本3サービスはすべてネット対応が可能となるわけです。郵便局は、コンビニエンスストアが近くにない地方の高齢者層が重要顧客ですから、スマホ端末によって生活密着型のあらゆるサービスを展開することは非常に意義のあることといえます(図7)。

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#シンプルなユーザーインターフェイスでコンシェルジュ機能も搭載

スマホをプラットフォームとして展開する場合、様々なサービスの可能性が広がるわけですが、そこはやはり、郵便局の強みを活かした生活関連サービスであるべきだと思います。特に郵便局という社会に浸透した信頼とサービスを強みに、地方や高齢者層をコアターゲットとした生活密着型のサービス展開が必要でしょう。こういった観点から、具体的なサービスについていくつか提案していきます。

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<続きは書籍版で>

各ケースの”今”について、どのような課題を見い出し、あなたは何を導き出しますか?(BOND-BBT MBA事務局より)今回のケースをご覧になられて、皆様いかがでしたでしょうか?書籍からの転載ということもあり、最後の結論についてこの場でご紹介することができず心苦しいところではございますが、「RTOCS®」に取り組む際、私どもは「皆様ならどうするか?」という点を大切にしております。

大前研一が述べている解説が正解というわけではございません。あくまでも、論拠に基づいて考え抜いた“ひとつの解”です。その思考プロセスから考え方や視点などを学び、ご自身でその時々の“最適解”を導き出せる力を鍛えていっていただきたいと考えております。

上記のプロセスをご覧いただき、皆様でしたら最終的にどのような結論を導かれますでしょうか。ぜひ一度、お時間をとって考えてみてください。

そして、ご自身の考えと大前の考えを比較してさらに学びを深めたいとお考えの方は、よろしければぜひ書籍をご購入いただければと存じます。

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