やるべきことと、やりたいこと~周囲からの役割期待【女性のキャリアを考える。第7回】
今回は「役割」という切り口でお伝えします。
Who are you?
「あなたは、何者ですか?」と問われたとき、なんと答えますか?
会社員、妻、2児の母、働きながら学んでいる社会人学生・・・ 我々は、さまざまな役割を担って生きています。そして面白いことに、この役割は生涯同じではなく、年齢や場面に応じて人生の中で変化し続けます。目の前の事に追いかけられているとき、一杯いっぱいになってしまっているとき、我々は、ついこの役割の変化を忘れてしまいます。
「こんなに忙しいのに無理」「やることがいっぱいあるのに」・・・営業ノルマ達成、職場のリーダー役、後輩の育成担当、子育て、家事、ご近所付き合い・・・今、あなたを追い立てている“役割”は、未来永劫変わらないのでしょうか?
営業ノウハウは日増しに確立され、手のかかる後輩もやがて仕事を覚えて独り立ちする。 お客様との信頼関係も時間が経てばより強固なものとなり、これまでは時間のかかっていたコミュニケーションも、簡素化されていくことでしょう。子供はやがて育ち、時短家電商品の登場は、家事労働をますます軽減していきます。仕事においても、プライベートにおいても、我々の“役割”は、日々変化していくのです。
「人生やキャリアとは、人生における役割=ライフロールをいくつか選んで組み合わせることで自己概念を実現しようとする試みである。」米国の教育学者ドナルド・E・スーパーの「ライフキャリア・レインボー」というキャリア理論です。
キャリアという虹
スーパーによると、キャリアは以下の7から9種類の役割の積み重ねであり、この重なり合いの形が虹に例えられています。役割自体も、その重なり具合も、生涯を通して変化し続けるのです。
9つの役割
(1)子ども (2)学生 (3)職業人 (4)配偶者 (5)家庭人 (6)親 (7)市民
(8)余暇人 (9)年金生活者
子どもから始まる我々の役割に、やがて学生が加わる。社会人になると、新たに職業人としての役割が始まり、納税や選挙を通して市民としての役割を認識する機会も増えてくるでしょう。結婚すれば配偶者の役割が発生し、そして子供を持つことで親の役割がやってくる。
虹を構成する役割は、次々と増え続けていきます。
特に30代頃からは、仕事上の責任が増大する時期であると共に、子どもの成長への関わりや、親への関わり等、それぞれの役割が最も多く重なり合い、果たすべき役割に翻弄されかねません。
この時期に「職業人」としての役割にだけ没頭してしまうと、「親」や「配偶者」としての役割が疎かになり、結果家庭内のトラブルが発生してしまい、かえって「職業人」の役割に悪影響が出てしまうこともあるでしょう。50代になって、役職定年を迎えた途端に、家庭内に居場所が無いことに気づいたり、共に余暇を楽しむ相手どころか、余暇の過ごし方さえわからない自分と、向き合うことになるかもしれません。
選べない役割=役割期待
働きながら学ぶことを決意し、社会人学生になる。新たにマラソンという趣味に取り組み始めて、市民ランナーという役割を得る。役割の中には、自ら望んで選びとっていくものがあります。
その一方で、生涯スペシャリストでいたいと希望していたのに、マネジメント職への転換を余儀なくされたり、突然発生した親の介護に向き合わねばならない等、向こうからやってくる避けられない役割=やらなくてはいけないこともあります。
例えそれが自ら望んだものではなくとも、やってきた役割には、向き合っていく。我々が生きていく上では、周囲や社会との相互関係を維持するしかありません。しかしながら、役割をやりくりする過程自体がキャリアの発達であり、自らの人生を形成していくのです。
役割とその組み合わせは、生涯を掛けて変化します。役割自体には避けられないものがあったとしても、それをいかに組み合わせていくのかは、自分次第であるということです。
役割期待が教えてくれること=潜在的な力
自ら望んで選び取った役割に対し、向こうからやってくる役割。なぜ、自分にやってくるのか。それは、間違いなく、あなたの中にある“役割期待に応える力”を相手が見抜いているからです。“彼女に任せれば、きっとなんとかしてくれる。”相手がそう判断するからこそ、役割がやって来ます。わざわざ失敗するであろう方を選んで期待をすることは、まず考えられません。
立場が人を作るといいますが、期待に応えて悪戦苦闘しているうちに、気づけば難なくその期待をこなしている自分。さらには、この経験をもとに、一歩先に進もうとしている自分に気づかれたご経験がある方も少なく無いのでは、ないでしょうか。いわば、やってくる役割は、自分にとっての次の成長への機会の提供。“やらねばいけないこと”と思っていたものが、実は後になって振り返ってみれば、自分のキャリアにおいて“やるべきであったこと”なのかもしれません。
その時々の役割を主体的に組み合わせて、生涯をかけてキャリアという虹を描いていく。あなたは、どんな虹を描きますか?
講師プロフィール
藤野 祐美 氏
株式会社Y’sオーダー 代表取締役
オーストラリア BOND大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
ミノルタカメラ(現コニカミノルタ社)にて、産業用計測機器の販売企画、販売支援に従事の後、P&G社(米資本)での国際人事業務を経て、世界最大の水産飼料会社ニュートレコ社(オランダ資本)の日本法人立ち上げに参画。同社はじめ、関連会社2社を起ち上げ、取締役に就任。アジア太平洋地域人事統括として、組織開発、人材開発に従事。その後、2007年株式会社Y’sオーダーを設立、代表取締役就任。グローバル市場で活躍できる人材育成のための組織開発・人材開発を手掛ける。