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Business Model Design(2)VUCA時代を生き抜く2つのヒント、「サイエンス」と「アート」

執筆:安達佳彦(外資系製薬会社勤務)
対象科目:Business Model Design(講師:中川 功一)

さて、前回の寄稿ではVUCA時代を生き抜く術について「Learning agility」をキーワードにご紹介致しました。それと同時に、『Business Model Design(BMD)』では考え抜く力のスキルの獲得が期待できるということもご紹介致しました。

それでは、新規事業を考えるにあたり、どのような発想が求められるのでしょうか?

ビジネスにおけるアート

『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(著者:山口周、光文社新書)によると、「これまでのような『分析』『論理』『理性』に軸足をおいた経営、いわば『サイエンス重視の意思決定』では、今日のように複雑で不安定な世界においてビジネスの舵取りをすることはできない」と指摘されています。

一方、複雑化・不安定化したビジネス社会で勝つためには、アートで重視されている「直感」「情理」「具体→抽象」や組織開発・リーダーシップに軸足を置く必要があることが示唆されています。

アートと直感

では、その直感とは本当に何もないところから出てくるのでしょうか?

私は違うと思います。

MBAを通じ重要だと感じたことは、自分の知らない新たに入手した情報を組み合わせて自分の考えをアウトプットすることが学びに繋がるという発見でした。ある特定の分野における経験や分析結果のみでは、同じような結論しか出ませんが、他業界の事例や、普段考えたことのない経験・事例などを組み合わせることで、新しい発想が生まれてくるものなのです。

これは『BMD』の学習目標である、『考え抜く』スキルを身につける事に直結します。そして、そのために必要なのはある一定量のインプットです。これらの経験を掛け合わせ、直感的(アート的)にアイデアを出し、結論を導き出す訓練は、『BMD』を学ぶ過程でも養われます。

では体系的にビジネスを学んでいない方のためにも、どのようにして日常的に“アート”を鍛えることができるでしょうか? 有名な経営者達からも少しヒントを頂きましょう。

ソフトバンク「お父さん犬」はどのように生まれたか?

『BMD』で教鞭を取られている中川功一先生の書籍『ど素人でもわかる 経営学の本 -日常が学びに変わる!-』(翔泳社)でソフトバンクの「お父さん犬」はどのように生まれたのかがわかりやすく紹介されています。

ここでも創造するためには「詰め込み」と「引き出し」が大切であることが指摘されています。何よりもまず「知識」が必要で、そのためには「詰め込み教育」が有効であることが指摘されています。同時にここでは、引き出すこと、つまりアウトプットする訓練も重要であると指摘しており、ここは日本教育が改善すべきポイントなのかもしれません。

そんな中、孫正義は強制連想法(Compulsory Association)という方法で「お父さん犬」を導き出しました。これは、発想力を鍛えるためにランダムに書かれた2つの単語帳を同時に開き、その2枚を繋げるという方法です。

ここで出てきた「お父さん」と「犬」を組み合わせた結果がソフトバンクの人気CM「お父さん犬」の誕生となりました。

美しさに拘ったスティーブ・ジョブズ~カリグラフィの魅力~

皆さんもご存知かと思いますが、“マッキントッシュ”には美しいフォントがいくつか存在しており、今のMacを支える強力な武器となっています。その起源は大学を中退したジョブズを魅了したカリグラフィー(アルファベット文字を美しく装飾して書く技法)という西洋書道が役立っています。ジョブズが美しさにこだわる理由は元々なのかもしれませんが、カリグラフィーの存在を知っているジョブズだからこその発想で、更なる美しさを追究することになった要因とも言われています。

さらに、皆さんも一度は目にされたことがあると思いますが、ジョブズのプレゼンスタイルは独特です。なぜか未来を感じますよね。どのようにしたら、あのようなプレゼンができるようになるのでしょう?

『BMD』では、課題のひとつとしてリアルな企業に新規事業を提案(プレゼン)をしますので、少し哲学的な側面からコツをご紹介しましょう。

ロジックだけではつまらない!~古代アリストテレスが提唱した「ロゴス」「エトス」「パトス」~

前述したように、冒頭ではサイエンスを「分析」「論理」「理性」というように定義しておりましたが、これらのサイエンスだけでは、ビジネスはうまくいかない可能性が指摘されていましたね。

古代ギリシャの哲学者の一人である、アリストテレス(紀元前384-322)も、論理や倫理だけでは人は動かないことを指摘しています。こちらは著書『弁論術』で、人を説得して行動を変えさせるには「ロゴス」「エトス」「パトス」の3つが必要であると指摘しています。

・ロゴス=ロジック「論理」
・エトス=エシックス「倫理」
・パトス=パッション「情熱」

 

想像してみてください。論理的にだけ説明する人の話をみなさんは信用するでしょうか? いくら理にかなっていても道徳的な側面が欠けていたら信用することはできませんし、社会的な価値もないと判断されます。では、この二つだけでよいでしょうか? ビジネス的な側面を考えればそれだけでいいかもしれませんが、そこに情熱が感じられなければ人の行動は変えられません。強い思い入れがあることで初めて人は共感することができるのです。

論理・倫理だけでは足りず、情熱だけでも人は動きません。これらの「ロゴス」「エトス」「パトス」が合わさって初めて人々は共感し、ついていこうと考えるようになる、というのがアリストテレスの考え方です。

このようにVUCA時代において、「サイエンスとアートの融合」が重要であるということを、直感を養うためのインプットの重要性から、最後は『弁論術』のエピソードまでをご紹介し、ご理解いただいたかと思います。『BMD』ではアート力も必要なのです。

続いてはセンスメーキング理論についてご紹介致します。

安達佳彦

Bond-BBT Global Leadership MBA 修了生
1981年生まれ。東京都出身。妻と息子3人の5人家族。
高校卒業後は北里大学薬学部に進学し、2004年に外資系製薬会社にMR(営業)として就職。入社後は九州の宮崎に配属となり4年勤務、その後は福岡に2年、沖縄に4年間在籍。沖縄在籍中、チームと個人で「優秀課表彰」「Best Performer賞」「欧州研修賞」の3つのAwardを同時に受賞。その後、営業以外の仕事にもチャレンジしたいという思いから、2014年9月にBond-BBT Global Leadership MBA入学、2017年2月修了。在学中にデジタルマーケティングの部署に異動となり、その後は営業のラインマネジャー、現在(2020年3月)はプロダクトマネジャーと営業のラインマネジャーを兼任している。

2019年にはビジネスコーチの資格も取得し、チームメンバーの成長支援だけではなく、講演活動や勉強会などを企画し、リーダーシップ、コーチングの普及活動を行っている。

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