事業計画を作成する際、最低限知っておきたいこと。
先月から「創業前~IPO後に大切にしておきたいこと」にフォーカスして連載開始した、Bond-BBT MBAプログラム22期生の福田徹さんによる連載第2回。今回は、「創業前に事業計画を作成する際に最低限しっておきたいこと」というテーマでお届けします。
福田さんのもとには、ほぼ毎週、様々な事業計画が持ち込まれるそうです。ただ、それらを見ているとある改善を要する共通点があるとのこと。それはいったい、何なのでしょうか?
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当社には、ほぼ毎週、様々な事業計画が持ち込まれます。事業計画をよく見てみると、将来の業績がどうして右肩上がりに上がっているかの根拠がないものが非常に多いです。どのようにその数字を評価したらよいかこちらとしてはさっぱりわからないと感じることもあります。事業計画を書いた方から説明を聞くと、マーケットの拡大を想定し自分の考えたシェアを掛け算しているだけとか、「絶対売れるから」という根拠のない理由が述べられます。ひいき目に見て、ひょっとしたらこの数字のように業績が上がっていくのかもしれないが、そう信じても、資金提供者には響きません。
そこで、今回は資金獲得のために重要な役割を担う事業計画書を作成する際に、最低限知っておきたいこと・気をつけておきたいことを考えてみたいと思います。
事業計画は誰に向けて書いているのか?
まずは、その事業計画は誰に向けて書くのかはっきりしないといけません。ベンチャーキャピタル向けなのか?銀行向けなのか?それとも補助金獲得のためなのか?助成金目当てなのか?業務提携先向けなのか?あるいは自分自身のためなのか?
対象によって内容が異なるのは当然のことです。当社でよく拝見させていただく事業計画書はベンチャーキャピタル向けが多いので、その観点から、知っておくべきことを考えてみたいと思います。
事業のビジョンは何か?
新たに作ろうとしている事業のビジョンは何なのでしょうか?ビジョンがないと事業をしてはいけません。事業を通して自分が達成したい夢は何か?将来の構想をもっているか?なぜ、いま、その市場を選んだのか?その事業のどこか魅力的なのか?自分のコアコンピタンスは何なのか?といったことを深く考えてから事業計画を考える必要があるのです。
また、事業は世間に受け入れられないと継続することが難しいため、社会的意義、ミッションがないと事業は成功しません。ビジョンやミッションがしっかりしていると感動する事業計画書ができる。そのような意味で、事業計画書には経営者の志が感じられないといけません。
その事業に本当にニーズはあるのか?
次は、その事業が本当にニーズにかなっているのかです。事業のマーケット・ニーズとポジショニングは重要な検討事項です。顧客に対するメリットはどこにあるのか?また、創業するからには、自分は唯一無二の存在としてその事業サービスを提供できる自信が必要です。本当にそのニーズがあるのでしょうか?本当に自分が一番適した人なのでしょうか?創業する事業分野では他社がまねできないことを自分は身に付けているのでしょうか?深く深く考えると、安易に創業できないが、とことんまで突き詰めると開始した事業は軌道に乗っていきます。
マーケティングを考える
マーケティングも具体的に考えないといけません。マーケティングの目標は?対象となる顧客層が誰でどこにいるのか?などを検討しなくてはならないのは自明のことでしょう。多くの場合はニッチ・マーケティングをする必要があります。皆様でしたら、顧客にどのように自己のポジショニングを説明しますか?
エグゼキュティブサマリーの大切さ
事業計画書を読む人にとって、エグゼキュティブサマリーはポイントとなります。最初に目を通す部分で、資金提供者はここを見て自分の資金を出す対象となる事業かどうかを最終決定します。ここにミッションとビジョン、持続的なベクトルとパワーが表現されていないといけません。
事業リスクを認識していますか?
創業する方のお話で、自分の事業にはライバルがない、と言う方が多くいらっしゃいます。しかし、実際はそのようなことは滅多にありません。必ずその事業の隣接業界はあるだろうし、ほかの企業で部分的に事業をしている部門があるはずです。
自分で自社の競合リスクをきちんと認識しているかどうかは、事業計画を見る人にとっては重要です。したがって、事業計画書には少なくとも競合をはじめ認識しているリスクについては記載すべきです。
事業リスクはビジネスプランの完成度を上げるために非常に大切な内容となっています。もしどうしても競合がないというのであれば、無理にでも競合する会社、つまり敵を作ったほうがいいのではないかと私は考えます。そうすることで「比較」ができるようになります。比較を通して、市場の占有率や、その企業を凌駕していく方法が見えてきます。
実際、個人的な経験ですが、お会いしたほとんどの上場した企業の社長は、上場を目指した理由は、「同業のあそこが上場しているのに、うちが上場できないはずはない。」と考えたことから始まっています。
いかにして第一号の顧客をつかみますか?
財務計画や損益計画は、多くの場合は実現性が乏しいと読む人は感じているので、ビジネスモデルほど重要視していないことが多いです。しかし、作成する側はもちろん真剣に考える必要があります。少しのミスが信頼性を失うことにつながります。例えば、借入金が減少していっているのに、支払利息が減っていない。固定資産があるのに、減価償却を考えていない。実際、貸借対照表の将来予想は難しい。資産、負債、資本をどのように考えて、成長していくか。投資計画もあった方がいい。精緻な計画を作ると、必要な資金額が正確に算出され、資金調達しやすい。いずれにしても、収支予測も重要だが、事業計画を立てる際には、「どのようにして第一号の顧客をつかむか?」をまず考えるべきです。
重要なポイント、資本政策とは?
ベンチャーキャピタル向けの事業計画書を作成する際には大きなポイントは資本政策です。いつ誰に株主になってもらい、誰にストックオプションを持ってもらうか。出口がIPOであれば、IPO時のPER、株価がいくらになっているのかを考えてから逆算していくのが良い。株主も選別すべきで、ベンチャーキャピタルもいいが、事業提携先にも株式を持ってもらっている方が、投資家は安心します。
講師プロフィール
福田 徹 氏
株式会社福田総合研究所 代表取締役社長
1984年3月早稲田大学卒業、豪州Bond大学大学院MBA取得。野村證券、ソニー生命(MDRT)を経て、2005年福田総合研究所設立。その間、証券英国現地法人にて、サッチャー政権の英国ビッグバン対応業務を行う。國學院大學で、財務分析、証券分析、関東学院大学でFP、武蔵大学で金融数学を講義、経済学部金融学科でファイナンス、ケーススタディーのゼミを担当。豪州のマードック大学ではマーケティングの客員講師。上場会社の社外取締役と社外監査役を兼務。中小企業から1部上場企業まで、各社のテーマに応じてコンサルティングを行っている。大手証券、地銀、地銀協、生保など多くの企業で研修も実施。
主な著書:「なぜ、会社の資金繰りが悪くなったのか?」(税務経理協会)、CFO協会のIRテキストブック監修、「IPOを目指す起業家及びIR担当者のためのIR実務」(電子書籍)、『「株式上場」が頭をよぎった経営者が読むIPO入門』(Amazon Kindle)。論文「証券アナリストとIRオフィサーの関係性について」。
基本をおさえる大切さ。(Bond-BBT MBA事務局より)今回の記事はいかがでしたでしょうか?
日々、事業計画を見ていくなかで気が付かれたこと、大切にしなくてはいけないと福田さんが感じられていることを中心に今回はまとめていただきました。Bond-BBT MBAでは修了年次に事業計画をチームで立案し、投資家をしている教授に対してプレゼンをするまでのプロセスを経験しますが、そのプロセスでの経験も現在の仕事に活きていらっしゃるとのこと。私どももとても嬉しく思います。
本プログラムでも起業される方は多くいらっしゃいますが、学んだことと培われたネットワークを武器に、事業が少しでも早く軌道に乗ることをお祈りしています。
それでは、次回もお楽しみに!
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