部分最適に陥るな!マーケティングプロセスをまず理解する。【ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門 第2回】
4月からスタートいたしました、Bond-BBT MBAプログラム6期生の早嶋聡史さんによるオンライン勉強会「ドラッカーの格言から学ぶマーケティング入門」。第2回目はマーケティングを行う上で必要となるプロセスについて取り上げたいと思います。マーケティングというと、宣伝(広告など)や調査などといったイメージをお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか?たしかにそれらもマーケティングの大切な一要素です。ただ、そういった部分だけにフォーカスしてしまうと部分最適に陥ってしまって、目的・目標を結果的に達成できなくなってしまうということが往々に起こり得ます。
部分最適に陥らないためにも、プロセス全体を理解しておくことは大切なこと。今回は、その概要をお伝えします。
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第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」
MBAを受講するなら最低限知っておきたいフレームワークや考え方をドラッカーの格言を引用しながら学ぶマーケティング入門講座です。第2回は部分最適に陥らないで販売を不要にする仕組みについて取り上げます。
まずはマーケットを知ること。
ドラッカーは様々な格言の中でマーケティング活動そのものは「販売を不要にする」と言っています。そしてその活動を行うためには体系立ててマーケティング活動を理解していくことが大切です。
マーケティングプロセスは「マーケットを知ること」から始まります。2000年以降に企業活動に従事している人は、「マーケティング=分析」と考える人が多いでしょう。近年、分析はITを駆使した考え方が主流になり、随分と分析が楽になりました。一方で、その分析自体が何のために行われているのかを理解しないまま分析をひとまず進めていくといった方も増え、実際のビジネスに十分に活用されないで分析が目的になってしまっている場合もよく見受けられます。
マーケットを知る場合、大きく2つの方向性を見ていく必要があるでしょう。大きな方向性を見るマクロ環境分析と、より自分たちのビジネスを身近に観察するミクロ環境分析です。マクロ環境分析を進める際は、PEST分析などを通じて自社でコントロールできない数年先の事業環境の予測から事業機会や自社のビジネスを脅かす脅威となる要因を抽出して整理しておきます。また、ミクロ環境分析では市場、競合、自社の分析、いわゆる3C分析を通して機会や脅威の抽出に加えて、自社の強みや弱みを整理していきます。
それぞれの分析は、直近の時系列にとらわれることなく、過去から現在、現在から将来と見ていきます。更に、業界のくくりが20年前と比較して難しくなった昨今、どのような視点で分析するかは行っているビジネスや事業のライフサイクルによっても異なります。MBAプログラムではマーケティングの授業以外でも事業環境を分析し考察する考えや視点を学びますが、様々な視点から網羅的に捉えながらビジネスの全体像と詳細を常に行き来して捉えるイメージが大切です。
セグメンテーションを行う。
「新しい満足」を創る新規ビジネスにおいては、上記の分析の後に「マーケット・セグメンテーション」を行います。自分たちがビジネスを行う土壌を自ら定義する作業です。市場はそこに存在しているのではなく、自ら創造します。市場を自分たちのビジネスが優位に働くように定義するのです。
一方、既存のビジネスの場合は、過去に定義した事業セグメントが自社のビジネスの現状に対して引き続き整合性が取れているかを定期的に検証することも大切です。
セグメントを分けて分析を進めることで、「誰が」「どんな欲求を持っているか」が見えやすくなります。そして「自社の強み」を活かしやすい市場を見つけて参入するのです。それから「何を、誰に、いつ売るか」を整理してマーケティングの方針を固めて実行します。
既存のビジネスの見直しの場合は、自社が考えているターゲットに対して商品、価格、流通、販売促進活動、それを実行している組織が適切に機能しているか(いわゆる4P、マーケティング・ミックス)を再確認します。整合性が取れていない視点があれば、過去のしがらみを断ち切って今の市場に合ったマーケティング・ミックスを再構築する必要があります。
ただ、「顧客第一主義」で「販売を不要にする」仕組みを構築しても、生き物である人間の特徴(価値観など)は常に変化します。その変化の行き先を完全に予測することはできません。だからこそ、成功体験に変に縛られずに、変化に応じて前回のオンライン勉強会で取り上げたように「マーケティング」と「イノベーション」を絶えず行い、創造と破壊を繰り返していく必要があります。
いかに優れた部分最適も全体最適には勝てない。
MBAプログラムでマーケティングを学ぶ際、一つ頭に入れて置くと良いことがあります。それは、マーケティングプロセスがあまりにも広域にわたる作業であるということです。一人で起業するときでも全てを一人で行うことは至難の業。ある程度大きな組織になれば、常に分業されてマーケティングは実施されています。そのため、実際の組織では個々の活動が分断されて個別に最適化され、目的を失ってしまっている場合が多く観察されるのです。
「いかに優れた部分最適も全体最適には勝てない」、ドラッカーは常に物事を全体最適で捉え考えることを重視しています。マーケティングを学ぶ場合も、個別のテクニカルな分析や手法を理解するのも大切ですが、常に視座を高くして全体像を意識することが肝要です。それを忘れてはいけません。
次の回は、企業の成長と衰退にフォーカスして「マーケティング・マイオピア」という概念について考えていきます。
講師プロフィール
早嶋 聡史 氏
株式会社ビズ・ナビ&カンパニー 代表取締役
株式会社ビザイン 代表取締役
一般社団法人 日本M&Aアドバイザー協会 理事
国立九州工業大学 情報工学部 機械システム工学科 卒業、オーストラリア ボンド大学 大学院 経営学修士課程(MBA) 修了。
横河電機株式会社において、R&D(研究開発部門)、海外マーケティングを経験後、2005年11月に株式会社ビズ・ナビ&カンパニーを設立し、マーケティング担当取締役に就任。2012年4月に代表取締役に就任。2007年株式会社ビザインを取締役パートナーとして設立、2009年代表取締役就任。中小企業の友好的M&Aへの理解・普及活動、M&Aアドバイザー養成を手がける。専門分野は、ビジネス統計分析、マーケティング戦略とコーポレートファイナンス。
全体最適することの大切さ。(Bond-BBT MBA事務局より)今回の記事はいかがでしたでしょうか?マーケティングに限った話ではないですが、組織に属して仕事をしている限り、与えられた/見出した役割に応じて分担して仕事を進めていく必要があります。
負荷分散や効率化などを考えるととても大切な方法ではありますが、自分の仕事の範囲内でしか物事を見なくなりがちなため、部分最適に陥りやすくなってしまうことも事実。それをどのようにして乗り越えていくかが、個人の、そして企業の成長にとって必要なことなのではないでしょうか。
「T型人材」という言葉もありますが、ご自身の専門性(仕事)を軸に幅広い視点(知識、考え方など)をもつことは、高い視座に立って仕事をしていく上で求められることです。MBAプログラムでの学びは、ビジネスの領域においてそのような人材を育成するために効果的・効率的なトレーニング方法であると言えます。
もし、そのような力をつける必要性を感じていらっしゃるようでしたら、MBAプログラムの門をぜひ叩かれてみてください。
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第1回:顧客創造のために不可欠な「マーケティング」と「イノベーション」
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第3回:企業の成長も衰退も定義次第。